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□是愛。
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任務で魔障を受けてしまったという父親の見舞いがてら、可愛い恋人を改めて家族に紹介しようと燐を一泊二日の里帰りに誘った。嬉しそうに、けれども遠慮がちに「俺も行っていいのかよ…?」と裾を掴んで尋ねてくる様子はとてもいじらしく、可愛かった。さすが奥村くん、俺のつぼを心得てはる!なんて衝動をなけなしの理性で押し込めながら頷いた自分は偉いと思う。そうして、どことなく緊張した面持ちの燐を連れて我が家に帰ってきた、今。目の前で繰り広げられている光景を見て、志摩は早くも強い後悔の念に苛まれていた。


「燐くん燐くん、まんじゅう食べや」
「えっ、でも…」
「燐くんのために持ってきたもんや。遠慮なんてせんと、食べてぇな」
「あ、ありがとうございます…」
「おん、素直なんが一番」


ええ子ええ子ほらたんと食べやああほんま燐くんかいらしいなあ。そう言って、柔造がまんじゅうを頬張る燐の頭を撫でている。子供好きな彼の兄心というやつに燐は曲がることなくまっすぐと突き刺さったらしく、自慢げに志摩が「柔兄、こちら恋人の奥村くん」と紹介した途端、でれりと表情を蕩けさせて構いだしたのだ。


「志摩の兄ちゃん、もう止め…っ」
「そん呼び方金造とごっちゃになるやろ、柔兄でええよ」


人懐っこい性格をしているくせ、どこか人慣れしていない燐の態度がまた兄心にヒットしたのか、柔造は笑いながら燐を構い倒す。仮にも弟の恋人であるだなんて頭からすっぽ抜けてしまっているのだろう。あうあうと言葉に詰まる燐にかわええかわええと連発していた。


「ほら、柔兄て言うてみ?」
「う…えっと、じゅうにー…」
「ほうほう、簡単やろ。今からそう呼んだってな」
「…おう」
「ははは、ほんまかいらしいなあ」


つまらない。これじゃあ蚊帳の外だ。志摩はぶすりと頬を膨らませて柔造を睨む。確かに直球と予想外の変化球が燐の持ち味なのだけれど、こうも兄にぴたりとはまらなくてもいいじゃないか。というか志摩だってまだ名前で呼んだことも名前で呼ばれたこともないのに。早く二人きりにしてくれと念じていると、兄は何を勘違いしたのかにっこりと笑顔で弟の名前を呼んだ。


「廉造、廉造」
「……どないしたん、柔兄」
「もうちょい近う来い」
「なんなん、もう…」


少し嫌な顔をして、手招かれた方―――柔造の左側に腰をおろす。右側には燐がきょとんとした表情で頭を撫でられていて、一体何がしたいんだと首を傾げた。我が兄ながら考えが読めないなあと横顔を見上げる。


「ほんで、柔兄は何がしたいん?」
「なあ燐くん、」
「まさかの無視!?」
「ちょお静かにしいな。でな、燐くん」
「は、はい…」
「廉造はこん見た目通りエロくて阿呆や」
「柔兄!?」
「知ってるよ」
「奥村くん!?」


なんだか柔造と燐にけなされているだけのような気がして、志摩はがくりと肩を落とす。障害だらけの生きにくい世界を歩んでいる恋人が自分の家族と打ち解けるのは大変喜ばしいことなのだけれど、こうも意気投合されてしまってはこちらとしても面白くない。連れてきたことが間違いだとは思わないけれど、やはり兄に紹介したのはいけなかったのだろうか。もやもやと渦巻く思考に志摩が捕われていると、がしりと頭に重みが降ってきた。


「ちょ、髪型崩れるやん止めてぇな柔兄!」
「ほんでもな、燐くん」
「ねえ弟の話聞いとる?」
「これは燐くんに心底惚れとるさかい…末永く仲良くしたってな」
「うん。俺も、志摩に……れんぞーに、その、惚れてるし…当たり前だ」


こちらこそ末永くよろしくお願いします。ぺこりとつむじを向ける燐に志摩はいたく感動した。だって、素直だけど恥ずかしがり屋のこの恋人が名前を呼んでくれて、しかもプロポーズに近い言葉を言ってくれたのだ。俺、今ほど柔兄の弟で良かったて思うたことないわ。じいんと震える心の中でそう叫ぶ。


「奥村くん、もうほんま大好きや!」
「ちょ、ひっつくなよ…!」


身を乗り出してぎゅうっと柔造の膝の上で燐を抱きしめた。兄の存在なんてこの際無視だ。しかし燐は気になるらしく、ぎゃあぎゃあと文句を口に出しては志摩を睨む。その、隠しきれていない赤い頬が可愛くて可愛くて、堪らず額にキスを降らせる。


「あーもう、かいらしすぎるで奥村くん…!」
「ばか志摩!」
「えええ、名前で呼んだってよ!」
「ばかれんぞー!」
「あかん…!かわえくて今ならばかって言われても平気や…!」
「もうっ、じゅうにーが見てるだろ!」
「あ、俺なら構へんよ燐くん。存分に柔兄の膝の上でいちゃつき」


じゃれる二人が可愛くて仕方がないといった表情で、柔造はがしがしと黒とピンクを撫でた。助けてはくれないらしい。もう好きにしてくれと、燐は額に頬に降り注ぐ志摩からのキスを甘んじて受け止める。それでも照れは拭い去れなくて、仕返しにと志摩の鼻に噛みついた。


「あたっ!」
「れんぞーのばか…好きだぞ」
「俺も好き!大好きやでー燐!」
「俺の方が好きだ!」
「いや、これはいくらなんでも譲れへんよ…!」


いつの間にかどちらがどれだけ好きかを言い争う可愛い子供達に触発されて、柔造が「俺も大好きやでー二人とも!」と膝の上の二人を腕に抱き込むのは、もうすぐのこと。












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