沖田×土方
□1-2.ヤキモチ
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アイツは何にもわかってない…
近藤さんにとって僕が弟みたいに大切な、宝物だなんて事、わかってるんだ。
僕が知りたいのはそんな解りきった事じゃなくて…
あんたの気持ちなんでさァ。
慌てて追いかけて来る土方を無視して、僕は道場への道を足早に進んだ。
いつもは金魚のフンみたいにアイツの後をついていっていたから、なんだか少しの違和感を覚えた。
…というか、そもそも今日は道場を休むつもりでいたのに。
(何で迎えに来やがったんでィ…しかも悩みの元凶がッ)
自分でもよくわからないけれど、土方が誰かと楽しそうにしているのを見ると、最近無性にイラッとするんだ。
以前は一匹狼みたいな奴で誰ともつるむ事なんて無かったのに、新しく来た食客共と仲良くしたりして。
僕も素直にその輪の中に入ればいいのだけれど、なかなか素直になれなくて…逆に悪戯ばかりしてしまうんだ。
それに加え、昨日近藤さんとじゃれ合って見た事もないような笑顔を向けている土方を目の当たりにして…ムカついたんだ。
最初は、僕の大好きな近藤さんを取った土方に対して嫉妬していた筈だったんだけど…
何故か段々、僕の知らない土方の顔を知っているであろう近藤さんが羨ましくなってきて。
2人の間にいつの間にか出来ていた絆のようなモノに、言いようのない疎外感を覚えるようになっていたんだ。
(僕だけ置き去りにされたくない…)
そういう想いからついズル休みをして、2人に自分を見て貰おうとしていたんだ。
ガキ臭いとは思う。
でも実際まだガキだから仕方ないじゃないか。
…そんな事をモヤモヤ考えながら歩いていたのだが、ふと物足りなさを感じて後ろを振り返ると―
「土方…?」
今まで僕の後を追いかけていた男の姿がどこにも見当たらなかった。
(うそ…ッ)
アイツの歩幅なら絶対に僕に追い付かないなんて事はない。
こんな1本道、はぐれる訳もない。
だとしたら…
我が儘な僕に愛想を尽かしていなくなってしまったの?
それとも文句ばかり言っている僕を見かねて、神様が僕から土方を奪ってしまったの?
ヤダ…
(そんなのヤダ…!!)
僕は元来た道を走って引き返した。
「土方ァ…どこだよ…ひじかたァ!!」
泣きながらガムシャラに叫んだ。
このままもう一生会えないんじゃないかと思うと、目の前が真っ暗になるような思いだった。
こんな事になるなら、素直に僕の傍にいてって言えばよかった…。
「土方ァ、土方ァ!!」
涙で視界が歪んで、僕は立ち尽くしたまま泣き喚く事しか出来なかった。
(土方ァ…土方に会いたいよ…)
そう強く思った時だった―
「総悟…!!?」
僕の名を呼ぶ声がしたのは。
声のした方を振り返ると、そこには捜し求めていた男が驚いた様子で立っていた。
「ひ、ひじかたぁ…!!」
僕は走って土方の所まで行き、ギュッと両脚にしがみついた。
「おまえ…どこ、行ってたんだよぉ…消えちゃったかと…思ったじゃないか…!!」
泣き顔を見せたくなくて、僕は土方の着流しに顔をうずめた。
すると不意に頭をぽんぽんと撫でられた。
「ちょっとそこで近藤さんに頼まれた買い出しを済ませてただけだ…何も泣くこたァねぇだろう…?」
そう、別に泣くような事じゃないんだ…
でも、土方に二度と逢えなくなるような気がして…そしたら知らないうちに涙が出てきちゃったんだ。
「土方は…僕の傍にいなきゃダメだ…離れたりしたら、許さないからな…」
悔し紛れにそう言うと、頭上からクスクスと笑い声が聞こえた。
真剣に言った言葉だったのに笑われ、ムッとして睨みつけようとしたのだが…
土方の、見た事もないような綺麗な笑顔に当てられて…反論の言葉を無くしてしまった。
「いいですよ、沖田先輩。ただし俺、強い奴が好きなんで…俺に剣で勝てたらその約束、果たしてあげますよ。」
ニヒヒと笑ってみせる土方にハッとして、負けじと僕も言い返した。
「わかった…絶対に強くなって、テメェを一生下僕にしてやるからな!!」
「ふん、やれるもんならやってみやがれ!!」
やっぱり僕は素直にはなれなかったけれど…
土方とずっと一緒にいる為にも強くなろうと決めたんだ…誰よりも。
だって誰よりも強くなれば土方は僕だけのモノになるでしょう?
僕だけを見ていてくれるでしょう?
…この日交わした約束を果たすべく、僕は剣の道にのめり込んでいった。
土方を誰にも渡したくない…ただその一心だった。