沖田×土方

□1-1.始まり
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アイツを初めて見た時の第一印象は、純粋に‘可愛い’だった。

亜麻色のサラサラした髪にはっきりした目鼻立ちは、まるで外人のように美しかった。

男だと聞いた時は本気で勿体ないと思ったが、将来童話に出て来る王子様のようになるんだろうと思うと、どこか楽しみだった。

しかし一緒に生活してみて…

外見とは裏腹な我が儘小僧だという事がわかった。

近藤や周りの奴らが甘いのをいい事にどんどん我が儘はエスカレートしていき、眼に余るようになっていった。

それなのに周りの大人達はガキの容姿に騙されて、ソイツが「欲しい」と言う物を惜しみもなく与えていた。

確かにあんな女の子みたいな顔で小首を傾げられたら、大抵の事は許してしまえる……それはわかる。

だから大概の事は何も言わずに黙って見て見ぬ振りをしていた。




けれど近藤の道場で居候するようになってから2・3ヶ月経ったある日…

どうしても許せない事が起こったのだ。





それはいつも通り稽古を終えて、道場を雑巾掛けしていた時の事だった。

悪戯好きのそのガキが道場に飾られていた額縁をはたきでわざと落としたのだ。

その額縁は道場に代々伝わる言わば家宝のような物だったのだが、床に落ちた衝撃で粉々になってしまった。

近藤や道場の奴らはそのガキに怪我がないかを第一に心配して、責任を咎めようとはしなかった。

けれど俺は見たんだ…奴が誰も見ていないかを確認してからわざと額縁を落とした所を。

そうとは知らないガキは、近藤に抱き着きながら「怖かった」と嘘泣きまでかましやがったのだ。

挙げ句の果てには「道場の掃除はいいから」と言われ、したり顔まで決めやがって。

それを見た瞬間、カッと頭に血が昇って…

気付くと俺は近藤の手からガキを剥ぎ取り、平手で思い切りガキの頬を叩いていた。

「トシ!?何て事すんだ!!」

自分でもよくわからなかった。

俺は他人とは関わらないようにして生きてきた人間だったから、自分に関係のない事で他人に手を上げるなんてことは今まで一度もなかったのに…

どうしても許せなくて身体が勝手に動いてしまったんだ。

「テメ、土方…何しやがんだ!!」

ガキは頬をおさえながら俺を睨みつけてきた。

(あ、俺の名前知ってたんだ…)

睨まれながらそんな事を思っていた。

このガキには普段、道場の奴らが取り巻きのように囲んでいて(可愛いかったから)俺と話す機会なんて全くなかったから…名前を知っていた事に少し驚いた。

(まぁ、俺の方はこのガキの名前なんざ忘れちまったんだがな…)

「オイ、トシ…いくらなんでもいきなり叩くなんて酷くねぇか?」

近藤の声で我に返ると、その場にいたほぼ全員が俺をまるで悪者を見るかのような眼で睨んでいた。

昔…妾の子として扱われていた時によく見た眼。

(やはり…ここでも俺は邪魔者みてェだなァ)

そう諦めた途端、先程少しでも熱くなった自分があほらしく思えてきた。

「…すみませんでした。」

謝って頭を下げる俺をガキは少し嘲笑うかのように眺めていた。

明日にはここを出て行こう…そう思ったから最後にガキに1つ釘をさしてやった。

「でもなァ、んな事して買った同情になんて何の意味もねぇんだぜ?人は結局1人なんだからな…」

そう言い残して俺は稽古場を後にした。














(完璧に嫌われたな…)

別に俺は額縁をわざと壊したからキレたんじゃない。

アイツのやり方が気に入らなかったんだ。

あんな事をしてまで誰かの愛情を欲しがるアイツが気に入らなかったんだ。

(だから甘ちゃんは嫌なんだよ…)

そんな事を考えながら俺は眠りに就いた。





そして翌日ここを出ていくはずだったのだが…




「土方ァ〜!!!」




廊下を出てすぐに叫び声がしたため振り返ると、亜麻色の髪を靡かせながら走って来るガキが見えて……思い切り抱き着かれた。両足に。

「土方ァ、今日からお前は僕のおめつけ役兼後輩だからな?ちゃんと‘先輩’ってつけて呼べよな?」

「え?はぁ…え?」

訳がわからずオロオロしていると、大きな瞳で下からじっと見つめられた。

「まさか…僕の名前知らない?」

あの可愛い顔で見つめられると嘘がつけなくて…俺はコクリと頷いた。

「じゃあ教えてあげる。僕の名前は沖田総悟っていうんだ。今日からは沖田先輩って言うんだぞ?」














人というのはわからないものです。

どういう訳か、俺はこのガキ…基、沖田先輩に、気に入られてしまったようです。

この時の選択のせいで俺は、この天邪久と一生付き合う羽目になってしまったのでした…。
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