沖田×土方

□1-2.ヤキモチ
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道場からいなくなる輩もいれば入ってくる輩もいる訳で。

いつの間にか俺とあのガキが1番の古株になっていた。

そして俺はあの「額縁事件」以来相変わらずそのガキに付き纏われる日々を送っている。

最近道場に入った原田や永倉達にもお守りをさせようとするのだが、どうしても俺にしか懐かなくて。

話を聞いただけじゃ「可愛いモンじゃないか」とか言われそうだが、アイツの‘懐く’は少し意味が違うのだ。

俺の大好物のマヨを隠したり、道場の庭にある池に落とそうとしたり、稽古中わざと男の急所を狙ってきたり…。

この頃では悪戯の範疇を軽く超えているような気さえしてくる始末で。

近藤さんの言うことなら聞くだろうと注意してもらっても、そこだけはどうしても譲る気がないらしく、終いには

「好かれてる証拠だよ」

なんて具合に片付けられてしまった。

はっきり言ってうんざりすることもあったがある意味それが日常のようになっていて、たまにアイツに会えない日があるとなんだか違和感を覚えるようになっていた。





そんなある日、いつもなら稽古の時間より前に現れるガキが、時間になっても来ない日があった。

心配になった俺は近藤さんに言ってガキを迎えに行く事にした。

しかし俺の心配も虚しくガキの家に着くと、ソイツは畳で何やらゴロゴロしていた。

ため息混じりでそちらへ向かうと、傍に1人の女がいるのが見えた。

別段女というものに興味がなかった俺は気にせずガキに声を掛けた。

するとガキと共にその女も振り向いたのだが、何も言われなくてもわかった…沖田の姉なのだと。

亜麻色の髪も大きな瞳も甘いマスクも、全てがそっくりだったから。

「可愛い」という言葉はこの女の為に作られたのだと思ってしまう程だった。




「土方ァ!!!」




しばらく女に視線を奪われていると、ガキが俺の方へと拳を上げて走ってきた。

片手で頭をガッツリ押さえ込むと、まだ非力なガキは俺の力には抗えず、その場で足踏みするような形で両手を振り回していた。

その姿がなんだか面白くて吹き出しそうになったがなんとか堪えて、着物の襟首を掴んで連行する事に成功した。

「土方ァ、テメ離せ!離せよ!!」

ジタバタ暴れるガキを引きずりながらチラリと女の方を振り返ると、俺達を見てにこやかに微笑む姿があった。

(やっぱり笑った顔もガキとそっくりだな…)

俺には滅多に見せない、近藤さんにだけ見せるガキの心から笑った顔。

それと女の笑顔が重なって見えて、なんだかガキが俺に微笑み掛けているように思えた。

それが少しだけ嬉しかった。




「姉上まで取るなよな」




道場への道中、俺に引きずられながらガキが突然そんな事を言い出した。

「はぁ?何言ってんすか沖田先輩?」

襟首を掴んだまま振り向くと、ガキの膨れっ面が眼に入った。

「お前最近、近藤さんと仲良過ぎだッ!!前はそうでもなかった癖に…」

言われてみればそうだった。

最初の頃はただお人よしのウザい奴としか思っていなかったが、一緒に過ごすうちに人柄の良さに惹かれていて。

1つ屋根の下に暮らしているせいか、いつの間にか警戒心は消えていた。

(そうか…コイツ、俺に近藤さんを取られたと思って拗ねてたのか)

そうだとわかると、やっぱりガキだなと呆れる部分となんだか可愛いなと思う部分があって、少し笑ってしまった。

「何笑ってんだよ!?」

「おお…わりィわりィ」

俺はなんとか笑いを抑えて襟首を掴んでいた手を離し、その手でガキの頭をぽんぽんと撫でた。

「大丈夫だ。あの人にとっての宝はお前だよ。もっと自分に自信持っていいんじゃねぇの?」

そう言って微笑み掛けるとガキは、キョトンとした後すぐにソッポを向いてしまった。

(扱い辛ぇなァ…)

そう思っているとガキがまた不意に俺を見上げてきた。

そして何やらぼそぼそと呟きだした。

「じゃあ、土方にとっての宝は…?」

「ん…?」

聞こえ辛くてもう一度聞き返すとガキは「なんでもねぇよ!!」と言って、道場の方へ走って行ってしまった。

「な、なんだァ?」

訳がわからず取り残されてしまった俺は、慌ててガキの後を追い掛けた。
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