沖田×土方

□1-3.花火
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今日、僕は朝から少し浮かれていた。

なぜってそれは…姉上と一緒に近藤さんの道場にお泊りすることになっているからだ。

近藤さんと1日中一緒にいられるのも勿論嬉しいのだが、姉上とどこかに泊まるというのが初めてで、プチ旅行気分だった。

しかも夜には道場の皆と花火もするとかで。

(早く夜にならないかな…)

稽古中、僕はそんな事ばかり考えていた。














「姉上〜ッ!!」

道場の門をくぐる姉の姿を見つけて、僕は一気に駆け出した。

そんな僕を見て、にっこりと微笑み掛けてくれるその笑顔が大好きだった。

「こんなに早く来るなら言ってくれれば僕が迎えに行ったのに…道中、何もありませんでしたか?」

最近、この辺りは時々物取りやらが出るという噂があった。

今は夏の夕方で明るいとは言え、女の1人歩きはやっぱり危険を伴う気がした。

「大丈夫よ、総ちゃん…この方が迎えに来て下さったから。」

姉上に気をとられて気付かなかったのか、すぐ後ろに土方が立っていた。

「荷物まで持って頂いちゃって…すみませんでした。」

「いや、別に」

丁寧にお辞儀して礼を言う姉上とは対照的に、土方は荷物を持ったまま道場の中に消えてしまった。

「なんでィアイツ…姉上が礼してるってのにあの態度。」

少しムッとしてそんな事を言う僕に、姉上は「そうかしら?」なんて明るい顔で返してきた。

「きっとあの人、感謝される事に慣れてないだけなのよ。だから少し照れちゃったのかもしれないわね。」

さすが姉上というかなんと言うか…あんな短時間で土方の特性を見抜くなんて。

初対面の人間は大体、土方=怖い人という方程式を導くのが常だ。

無口だしすぐに喧嘩をおっ始めようとするから。

でも実はシャイなだけで、本当は優しい奴…だったりするんだ。

「総ちゃん、今日私達が泊まるお部屋、案内してくれる?後、近藤さんとお師匠様達にも挨拶しないとね。」

「はい、わかりました!!」

いつの間にか前を歩いていた姉の背中を追いかけ、2人並んで歩き出した。









「いやぁ、ミツバ殿…お待ちしておりましたよ!!」

逢って早々、近藤さんは姉上の手を掴んでブンブンと握手を交わしていた。

土方とは正反対の対応になんだか笑いが込み上げてしまった。

「あの、ちょっと尋ねたいんですけど…私が今日泊まらせて頂くお部屋はどちらなんですか?総ちゃんに案内してもらったお部屋に私の荷物がなくて…」

そうなのだ。

土方が運んだ筈の荷物が案内した部屋にはなかったのだ。

すると近藤さんは思い出したように手を叩いた。

「そうそう、総悟にあらかじめ伝えておいた部屋とは別の部屋に泊まって貰う事になったんですよ」

…簡単に説明すると、男所帯に女性1人で泊まらせるのは不安だという事で、近藤さんの母親が姉上を自分の部屋に泊まらせるよう言ったそうだ。

近藤さんの母上は道場でも一目置かれている所謂鬼嫁で、逆らう者は1人としていないのだ。

だから1番安全だと考えて、そういう結論に達したのだろう。

「そういう事なんで…今から俺が母の部屋に案内しますよ。トシには伝えてあったんで、そっちに荷物運んでると思いますから。」

部屋に着くと近藤さんの言う通り、姉上の荷物が部屋の脇に置かれていた。

「あ、総悟はどうする?ミツバ殿と一緒の部屋が良ければもう1組布団持って来るけど…」

「あ…えっと、僕はその辺でざこ寝でいいよ。それかたまには…近藤さんと一緒がいいなぁ」

…というのは建て前で、近藤さんの母上の恐ろしさを知っている故に、同室だけは勘弁してほしかったのだ。

「そうね、折角のお泊まりなんだから、近藤さんのお部屋で一緒に寝かせて貰うのがいいわ。」

姉上のこの言葉で、なんとか難は免れたのだが…




(土方の部屋で泊まりたいって言えばよかったかも…)




なんて少し後悔している自分がいた。
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