沖田×土方
□1-4.覚醒 ※微ウラ有り
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道場で花火をした翌日くらいから、沖田の様子が少しおかしくなったような気がした。
暇さえあれば仕掛けてきた悪戯もパタリと止み、しつこく付き纏われる事もなくなった。
願ったりの状況であるはずなのに、何故か少し寂しく思っている自分がいた。
――――――
「トシ、見てみろよこの記事」
稽古後に自室で書物を読み漁っていた所に、近藤さんがいきなり飛び込んで来た。
「今江戸が…相当ヤバい事になってるみたいだぜ?」
何事かと思い新聞を受け取ると、江戸の町が火の海になっている写真が眼に入った。
記事によると城が落ちるのはもう間近だとか。
(何やってんだよ幕府の連中は…武士の風上にも置けねぇな)
イライラしながら読み進めていると、近藤さんも一緒になって横で胡座をかいて座った。
「それでな、これは隣の村で起こった事件なんだが…負け戦と知った攘夷志士達がその村に逃げ込んだあげく暴漢を働いたらしくてな。ソイツら、まだ捕まってないそうなんだ」
「何だよソレ…最低だな」
背を向けて逃げ出しただけでも武士の恥だというのに、一般人に対して暴力だなんて…考えられなかった。
「しかもその暴力が、性的暴力というヤツでな…そのせいで女の子が1人亡くなってしまったそうだ」
「人として1番やっちゃいけねぇ事だろ、それ…」
士農工商の名残から偉そうな武士共が前々から気に食わなかったが、更に奴らに対する嫌悪が増したような気がした。
「それで、だ。明日から総悟の送り迎え、頼まれてくれないか?」
「は…?いや、アイツ男だから大丈夫じゃねぇの?」
いくらアイツが女顔だからって流石に男は襲わないだろうと思っていたのだが、近藤さんの口から有り得ない事が告げられた。
「トシ…世の中にはな、穴がありゃ男だろうと女だろうと構わず襲ってくる輩もいるんだ。だから用心には用心をして、お前だけでなく俺も総悟の送迎に付き合うつもりだ。」
「そんな…大袈裟だよ。俺1人で十分だろ?」
しかし近藤さんは一歩も譲らないつもりらしく、渋々了解した。
翌日―
言葉通り、沖田の送り迎えが始まった。
近藤さんと2人で沖田の家に行くと、姉のミツバが出て来た。
「わざわざすみません」
丁寧に頭を下げる女に近藤さんは「いいんですよ、これくらい」なんて明るく笑っていた。
3人で暫く立ち話していると、奥の方からガキが現れた。
ソイツは、近藤さんの顔を見てパッと明るい表情を浮かべたが、俺を見た途端盛大に舌打ちをかましやがった。
向こうから近付いて来たかと思えば今度は急によそよそしくなったりして。
(猫みたいな野郎だな)
と思わずため息が洩れた。
結局その日は行きも帰りも何事も起こらなかった。
その翌日もそのまた翌日も、落ち武者共が現れる事はなかった。
そして物騒な噂が流れてから2週間程過ぎたある日…
稽古後いつも通り沖田を家まで送ろうと仕度をしていると、近藤さんが俺の目の前でいきなり両手を合わして頭を下げてきた。
「すまん、トシ…!!」
「どうしたんだよ、近藤さん?」
あまりの形相に何事かと思っていると、
「今日だけ俺の代わりに別の奴と総悟を送ってくれないか?」
との事だった。
話を聞くと、師匠である爺さんが稽古で張り切り過ぎて腰を痛めたらしく、医者に連れていかなければならなくなった、という事だった。
「わかった。俺1人で大丈夫だからさっさと爺さん連れてってやれよ」
「いや、だが、やっぱり原田辺りに頼んでお前と一緒に…」
「大丈夫だって。何に代えてもアイツは守ってやるから…だから、今は爺さんの事だけ考えてやりな」
俺の言葉に近藤さんは「本当にワリい」と言い残して、爺さんの元へと走って行った。
ぶっちゃけ本音を言えば、最近のアイツは扱い辛いからもう1人誰か欲しかったが、誰かに頼るというのがどうも苦手で。
(まあ、2週間も前の話だし…落ち武者共ももうここいらにはいないだろうよ)
そう高を括って俺は、帰り支度が出来たであろう沖田を呼びに行く事にした。