沖田×土方
□1-5.後遺症
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「トシ、怪我の具合はどうだ?」
アノ事件から2週間が過ぎて…ようやく寝たきり生活から解放される事が出来た。
右腕及び肋の骨折、くじいただけだと思っていた左足首にも骨にヒビが入っていた。
後は身体中の無数の切り傷…崖から落ちた時に木や地面で切ったモノだった。
そして所々に見られる打ち身の跡。
これも崖から落ちた時に強くぶつけて出来たモノだが…ソレだけが原因ではなかった。
「本当にもう、ボロボロのお前が血だらけの総悟抱えて帰ってきた時は、肝が冷えたよ」
俺の身体を濡れ布で清めながら近藤さんは深いため息をついた。
…そう、あの後意識をなくしてしまった沖田をなんとか背負って道場までたどり着いたんだ。
そしたら道場の前には近藤さんやら門弟の奴らだけでなく、ミツバまでもがいて。
俺達の姿を見た途端、皆顔面蒼白で駆け寄ってきたんだ。
すぐに医者に連れていかれて診てもらったのだが、沖田の血はほぼ全てが返り血で、怪我は手足にかすり傷が2、3箇所あっただけだった。
対する俺は重傷で。
当然、何があったのかと質問攻めに遭った。
まさか全てを話す事なんて出来る訳がなかったから、崖から堕ちた事だけを話した。
幸い俺も沖田も刀傷はなかったから、それ以上追及される事はなかった。
けれどその翌日、4人の攘夷志士達の無惨な遺体が見付かって。
当然、近藤さんに問い詰められると思っていたんだ。
それなのに…
第一声、言われたのは、
『攘夷志士共から総悟を護ってくれてありがとうな、トシ』
というモノだった。
訳がわからずポカンとしていると、沖田から話を聞いたと言われて。
まさかアノ事も言いやがったのかと思い一瞬目の前が真っ暗になったが、どうも違うようだった。
話を聞くと、4人の大男達を負傷していた俺がバッサバッサと斬り倒し、やっつけてしまったというモノだった。
男達に躯を開いたという内容は一切なく、しかも俺が4人を倒した事になっていて。
正直頭が追い付かなかった。
不審に思って見舞いに来た沖田に問いただしてみたのだが、
『あれ、土方が4人を倒してくれたんでしょう?』
なんて、曇りのない眼で言われてしまったんだ。
『本当はね、記憶がないんだ…でも気付いたらじょういの人達が倒れてて。だから土方が倒してくれたんだって思ったんだけど…』
(もしかして、俺が躯を開いた事も沖田自身がアイツ達を斬った事も覚えていないのか?)
あんな事があったんだ、ショックで記憶が飛んだのかもしれない。
それなら、思い出さない方がいいに決まってる。
そう考えて、俺は沖田の話に乗る事にしたんだ。
俺だけがこの秘密を抱えて生きていけばいい。
そう、思ったんだ。
だけど…
正直あの時の沖田は、恐ろしかった。
何かにとりつかれたかのように別人になってしまって。
小さな鬼を見ているようだった。
でも、自分にも、同じような経験があったから…
小さい時、暴漢に傷つけられた兄さんを見たら頭に血が昇って、気付いたら…
俺は血だらけの小太刀を持って立っていたんだ。
周りには暴漢共が転がっていて、義理の兄弟達の怯えるような視線が俺に向けられていたんだ。
(俺と沖田はどこか通じるモノがあるのかもしれないな…)
そんな事を考えるようになっていた。
「どうしたの、トシ?」
ふと顔を上げると、身体を清めてくれていた近藤さんと眼があった。
「なんか難しい顔してたけど…」
「べ、別に何でもねぇよ。それよか、後は自分でやるからもういいよ」
そう言って近藤さんから布を奪い取った。
「爺さんに呼ばれてんだろ?行ってこいよ」
「え?あ、そうだったな…じゃあ、そうするよ」
近藤さんは立ち上がってそのまま部屋を出て行った。
…元々人と馴れ合うのは好きじゃなかったが、アノ事件以降どうも他人に自分の身体を触られるのが嫌なんだ。
近藤さんは親切でしてくれているのに、変に警戒してしまうし、訳もなくビクッとしてしまうし。
男なんだからアレ位の事なんでもないと思っているつもりなのだが、身体の方はそう簡単には割り切れないらしくて。
(トラウマになったのは俺の方だったみたいだな…)
自嘲めいた笑みを浮かべながら俺は濡れ布で、首の周りの汗を拭い取った。