沖田×土方
□2-1.転機
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月日が流れるのは早いもので…
俺が近藤さんの道場に来て、もう4年が過ぎようとしていた。
この間道場には人の出入りがあり、現在残っているのは俺を入れて9名だ。
1番の古株は、近藤さんがこの道場に養子として来る前からいた源さんだ。
門弟というよりご飯を作ったり身の周りの手伝いをしてくれる、気の優しいお手伝いさんみたいな人だ。
最年長ゆえ皆敬語を使っているが、尊敬というよりは親しみ易い人柄の持ち主である。
次に古いのは沖田だが、まあその説明は飛ばすとして、原田と永倉もなんだかんだで古い付き合いになる。
原田に至っては最初こそどこぞの筋の輩かと思う程の強面の暴れん坊だったが、今では大分落ち着いた感がある。
永倉は学に通じる所があり最初こそ苦手だったが、色々吸収する所があり、今ではよく話す間柄になった。
…で、だ。
ちょうど1年半前、突然この道場を訪ねてきたのが山南という男だった。
近藤さんの人柄に惹かれたとか抜かしているが、どうもいけすかないのだ。
ちぃとばかり学識があるからか、上からモノを言うような姿勢が気に入らない。
でも沖田は何故か懐いているようである。
そんでもって、その山南と同じ道場にいたという後輩までこの道場を訪ねてきて。
それが藤堂だった。
沖田より2歳上だが年齢が近いせいか、よくつるんで遊んでいるのを見る。
コイツは少し頭は弱いようだが人懐っこくて真っ直ぐな青年だから、結構気に入っていたりする。
そして、もう1人。
1番謎と言っていいかもしれない。
口数が少なく何を考えているか解らない時も多いが、剣の腕は最上級。
居合の達人、斎藤君だ。
何があったか知らないが瀕死状態だった所を俺が助けて以来、慕ってくれている(?)ようだった。
…この6人に、近藤さん・沖田・俺を加えた9人が、現段階での道場の門弟なのだ。
が、依然として貧乏道場なのに変わりはないのが現実で。
役に立とうと近藤さんの出稽古に付き合おうとも思ったが、我流剣法の俺では天然理心流を教える事は出来ず…
少しでも足しになればとここ2年程、稽古の合間に薬売りの手伝いをするようになった。
お蔭で怪我や薬に関する知識が身についた為、道場ではよく怪我人の面倒を診るようになっていた。
そしてその延長で病についても学ぶようになり、今では週に2回沖田の家に薬を届けに行くのが日課になっている。
勿論、弟の方ではなくて姉の方にだけれど。
つい最近まで弟には病の事は伏せていたのだが、アイツも数えで十四になるのだから言ってもいいんじゃないかと俺が提言して、ミツバも納得して打ち明けたのだ。
するとアイツは「気付いてたよ」と言って、これからは自分も頼るようにと姉に忠告したそうだ。
最近、背も伸びてきて(と言ってもまだ俺の胸の辺りまで位だけれど)成長したなと思っていたが、精神的にも成長したのだと嬉しく思えた。
しかしその反面、以前のように俺に懐いて来なくなり、若干寂しくもあった。
山南には懐いているのに俺に対しては舐めたような口をきくか「死ね」と言うかのどちらかで。
俺と結婚するとか可愛い事を言っていた面影は綺麗さっぱり無くなっていた。
―――――――
「わざわざありがとうございます」
いつものように沖田の家に薬を届けに行くと、ミツバの笑顔が待っていた。
ぶっちゃけ、最近ではこの笑顔の為に来ている感がいなめなかったりする。
「いいって礼なんて。まあ気休めみたいなモンだけど漢方は身体に良いから、貰っといてくれよ」
薬を手渡し、少し手が触れるだけでもドキドキしてしまう。
いつからだろうか、こんなにもこの女を意識するようになったのは…?
「もしよろしかったら、冷たいお茶でもいかがですか?お外、暑かったでしょう?」
そうなのだ…
もう10月だと言うのに今日は夏みたいに暑かったのだ。
「おお、ワリぃな」
なんだかんだもう少しミツバと話していたかったから、家にあがり茶を貰う事にした。
「そういやぁ、弟はどうしたんだ?」
風通しのいい縁側で涼んでいると、ちょうどミツバが冷茶を運んで来てくれた所だった。
「ああ、総ちゃんなら、藤堂さんと川に遊びに行ってますよ。そろそろ帰って来る頃じゃないかしら」
「そうか…ッたく、ガキは呑気でいいよな…」
夕日が一面を朱く照らし、木々が風になびく光景がとても美しく、思わずぼんやりとしてしまっていた。
2人で縁側に並び目の前の景色に見入っていると…ふと、女の声がした。
「あ、トンボ…」
その視線の先、縁側の端に1匹のトンボがとまっていた。