沖田×土方
□2-2.姉弟
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「どうして置いていくんだよ…!!?」
稽古後の道場で、僕の声が大きく響き渡った。
「どうしてもクソもねぇ。もう決まった事なんだよ」
土方はそう言い残して、さっさと道場を出て行ってしまった。
近藤さんや山南さん、源さんすらも何も言わずにその場から去って行ってしまった。
(なんで?どうしてなんだよ…!?)
納得なんか出来なくて、僕は道場の壁を思い切り蹴り飛ばしていた。
――――――
事の起こりは、稽古後の近藤さんの話の後にあった。
「皆も知っていると思うが、今幕府は各国から腕の立つ人間を探している。江戸の治安を護る為に我々の力を求めて下さっているのだ。よって、その力になるべく、俺は江戸に発ちたいと考えている。皆の中でこの考えに異をとなえる者はいるか?」
この言葉に異論をとなえる者なんて、当然いなかった。
「やっと俺達の時代が来たんだな」
「暴れてやろうぜ、近藤さん!」
皆口々にそんな事を言って、喜び合っていた。
僕も平ちゃんと喜び合っていたのだが、次に近藤さんが言った言葉に思わず固まってしまった。
「尚、総悟を除く8名は、出発までに刀の調達及び身辺整理をしておく事。暇を出す場合は早めに言いに来てくれ。以上、何か聞きたい事がある者はいるか?」
近藤さんの話に頭がついていかずポカンとしていると、隣に座っていた平ちゃんが勢い良く立ち上がった。
「ちょっと待ってよ近藤さん。総ちゃんを除くって、どういう意味だよ!?」
平ちゃんの反論に原田や永倉も頷いた。
「藤堂の言う通りだぜ?沖田は充分強いじゃねぇか。連れて行かないなんて勿体ねぇよ」
「そうそう。それに今まで苦楽を共にした仲間じゃねぇかよ?」
3人の言い様に山南さんが口を挟んできた。
「貴方方の言う事はごもっともです。けれど沖田君にはここに残って道場を守って頂くという大切な使命があるのです。彼以外に天然理心流を伝授出来る者がいますか?」
山南さんは上手く言ってくれたけど、要するに…
「僕がガキだから…だから連れて行きたくないんでしょ?」
僕の言葉に近藤さんは閉口してしまった。
「近藤さん達から見たら僕はまだガキかもしれない…でも、自分の将来くらい自分で決める権利があると思うんだ。だから僕は反対されても、皆と一緒に江戸に行くから。」
近藤さんに一生着いていく。
そう小さい時から僕は決意していたんだ。
だから例え誰に反対されようと、容易に引き下がる訳にはいかなかった。
「なぁ近藤さん、沖田もこう言ってる訳だし、今までみたいに皆で江戸に行こうぜ?」
宴会番長の原田と永倉がいつものノリでそう言った途端、今まで口を閉ざしていた土方がどすの利いた声で睨みつけてきた。
「おい…テメェらは江戸に遠足にでも行くつもりか?そのつもりなら、原田と永倉も来んじゃねぇよ」
その場の空気が一気に凍りついたような気がした。
こんな土方は見た事がなくて、冷や汗が背中を伝った。
「藤堂…お前もだ。そんなに沖田と一緒にいてぇなら、ここに残れ」
「土方君…」
温厚な源さんがどこか心配そうに僕達を見詰めていた。
「でも、ちゃんとした理由を聞かないとやっぱり納得出来やせん!!」
食らい付くようにして睨みつけると、土方は更に睨みを利かせてきた。
「だから今さっき山南さんが言っただろうが。この道場の後継ぎとしてお前に残っ…」
「違う!!そんな上辺の理由じゃなくて、本当の理由を教えてくれって言ってるんでさァ!!どうして置いていくんだよ…!?」
――――――
「…で、そう言ったらあの分からず屋が『どうしてもクソもねぇ。もう決まった事なんだよ』とか言って去っちまったんだよな」
「…だね」
「全く、訳わかんねぇよな。土方さんはともかく、近藤さんや山南さんまで沖田を連れていくのに反対だなんてよォ」
永倉、平ちゃん、原田がそれぞれそんな事を口にしていた。
今、僕達4人は、道場での一悶着を終えて、中庭でたむろしている所だった。
「総ちゃん、なんかごめんね…僕達が加勢したせいで余計話がぐちゃぐちゃになっちゃって」
平ちゃんのしょぼくれた顔に僕はブンブンと被りを振った。
「そんな事ないよ。あそこで誰も何も言ってくれなかったら、逆に今頃平ちゃん達に焼き入れてた所だよ」
冗談で言ったつもりだったのだが、3人はやけにびくついていた。
「お前が言うと洒落になんないから、それ」