沖田×土方

□3-1.策士と異常人
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「清河…?ああ、わかった」

適当に返事をして襖を閉め、俺は食いかけだった飯に再び手をつけた。



…ここは江戸に集まった者達が寝泊まりしている宿。

その宿のうち3つの部屋が俺達8人に割り当てられていて。

そしてその1つ、近藤さんと俺が泊まっている部屋で、8人揃って晩飯を食べていた時の事だった。

「どうしたんですかィ、土方さん?」

膳に戻り再び飯を喰らい出した所で、沖田が特に興味もなさそうに尋ねてきた。

「ああ、清河とか言う奴が話があるから本堂に集まれとか言ってたらしくてな…全く、江戸に着いて早々なんの説教垂れるんだか」

すると話が終わるか終わらないか位で、山南が口を挟んできた。

「土方君、清河先生と呼びなさい。それに、先生がお呼びになっているなら早く行かないと…」

(出たよ…山南の清河崇拝が)

清河とは庄内藩出身の志士で、北辰一刀流の達人な上に教養のある人物なのだ。

山南は教養人であるが故に博識な清河を尊敬しているようだ。

山南に急かされて皆も渋々立ち上がろうとしたが、俺はそのまま飯を食べ続けていた。

「土方君、さあ早く…」

「何を慌てる必要がある?」

俺の言葉に山南の表情が少しばかり歪んだ。

「アイツは俺達の単なる世話役であって主ではないだろう?待たせておけばいいんだよ」

「言葉を慎みたまえ土方君…君はもう少し心使いというものを覚えた方がいい」

食い下がろうとする男と俺の間に火花のようなモノが散り、一触即発モードになりかけていたのだが…




「あッ!!総ちゃん、それ俺のししゃもだよ!?」




藤堂のこんな叫び声でその場の空気が一変した。

「えぇ?残ってたからいらないのかと思っちまったや」

「俺が好きなモノ最後にとっておく派だって知ってるだろ?絶対わざとだ!!」

「はいはい、しょうがないなァ…僕の沢庵あげるから我慢しなせぇ」

「沢庵!?俺ししゃもがいい〜!!」

一同ポカンとする中、近藤さんのデカい笑い声が部屋に響いた。

「このままじゃ、総悟の野郎に全部喰われちまうなァ?後少しで食い終わるし、そしたら本堂へ行きましょうか…それに食事の途中で席を立つのはあまりいい事ではないからね」

近藤さんのおおらかな物言いに山南も丸め込まれたらしい。

「そうですね」と苦笑しながらも頷き、膳に戻った。

近藤さんのお蔭でその場の空気が元通りになったように見えたが、きっかけを作ったのは間違いなく沖田だった。

(まさかアイツ…)

沖田はと見ると、沢庵を藤堂の味噌汁にぶち込み遊んでいた。

(ま…いっか)


余り深く考えずに、俺は箸を動かし続けた。
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