沖田×土方

□3-2.真撰組
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芹沢の兄を使い、俺達は無事『江戸守護職会津中将様御預浪士』という位置に就く事が出来た。

つまり幕府の一機関となれた為、列記とした背景もでき、金も下りるようになったのだ。

まぁ額は充分とはとても言えたモノではなかったが、無いよりマシと我慢するより他は無かった。

…いっぽうの芹沢達は贅沢三昧な日々を送っているようだが。



「トシ、松平様から直々に頂いたアノ名前、格好良いよなッ?」

「ああ。悪くは無いと思うぜ?」

‘真撰組’

これが俺達浪士組の新たな隊名だった。

芹沢率いる新見を始めとする5名と、近藤さん率いる俺達8名の隊士とで結成したモノだ。

勿論、総帥は芹沢である。

「俺達も幕府の人間の仲間入りが出来たって訳か…やはり嬉しいものだな」

「おいおい…この程度で満足して貰っちゃ困るぜ?」

感慨深げに頷いている男の肩に手を置き、俺は窘めるような視線を向けた。

アンタはもっと高い所が似合うんだって。

こんな底辺で胡座なんかかいてちゃいけないんだって。

「近藤さん…早速だが、して貰いたい仕事があるんだ」

なんだ?と問う男に俺は「金」と答えた。

「確かに幕府から金が下りるようになったが、あんな端金じゃ喰ってくのも間々ならない。まずは隊士達を養う為の、しっかりとした軍用金を用意して貰いたいんだ」

形はいちおう幕府の一機関となったものの、当の隊士達の毎日の食事は侘しいモノだ。

腹が減っては戦は出来ぬ…

このままじゃ、いざって時に全く役に立たない腑抜け集団で終わってしまう。

「金か…実家の道場に頼んでみるか?」

「駄目だ」

近藤さんの案を俺はぴしゃりと跳ね退けた。

だって俺が言っている「金」というのは、貧乏道場から送られてくる五、六両の端金を意味していたのではなかったから。

「近藤さん…俺はな、精鋭をよりすぐって、この真撰組を数百人の大所帯にしたいと思ってるんだ。江戸で最大の義軍に育て上げようって…そう考えてるんだよ」

「トシ…」

近藤さんは驚いたように眼を見開いて俺を見詰めた。

どうやらこの人にはそんな考え、全く無かったようだ。

「それだけの大所帯を養う為には裕に四、五万石の金が要る。…こんな大金、あの道場にあると思うのか?」

「な、無いなァ」

だろう?

なら、どうすればいいか…分かるよな?

「芹沢先生を頼るしかないな」

「…その通りだ」

その為にアノ男と手を組んだのだから。

「じゃあ俺が話をつけて来るから…どう説得すれば良いかを教えてくれ、トシ」

(うん、良い傾向だ…)

以前のこの人ならトシが行ってくれと言っただろうが、今は自分が行くと言う。

徐々に大将としての自覚が出て来たようだ。

「分かった…今から言う事をアンタの言葉で芹沢に話してくれ」

そう言って手短に説明し、すぐに芹沢の元へと向かった。









「話とはなんだ、近藤君」

芹沢の部屋に行くと、昼間から宴会のような光景が広がっていた。

同じ真撰組でも近藤派と芹沢派では全く違う。

俺達の食事は質素で、着物だって武州にいた時の物をそのまま着ている為どこか薄汚れている。

一方の芹沢達は昼間っから酒を浴びる程飲む豪遊っぷり。

着物もかなり上質な素材で作られたモノを着ていた。

…似合うかどうかは別として。

「いや、実は真撰組の資金繰りについて相談がありまして…」

近藤さんは俺の言った通りの言葉を自分の物に変えながら説明し出した。

するとそれを聞いて…

芹沢は上機嫌だった。

「そうだな。ゆくゆくはワシも大名になる男だものな…よし、早速守護職に掛け合おう」

大名という言葉を出せば、食らい付くと思っていたが…正に的中だった。

「先生、ならば私もお供しましょう」

近藤さんの言葉に芹沢は良かろうとだけ答えた。

これも作戦の1つ。

芹沢だけに行かせれば、守護職にその顔しか覚えて貰えない。

だから近藤勲という男の事も良く知って貰う為に、自分もお供するようにと言っておいたのだ。



…後日、俺は近藤さんの付き添いという形で2人に着いていった。

そこで、近藤さんに話をさせ、上の者達の眼が近藤さんに行くよう仕向ける事に成功したのだった。

更に幕府から軍用金が近々与えられる事にもなって。

こうして1つずつ、俺達は真撰組の礎を作って行ったのだった。
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