二次創作

□ぴくしぃ様発=僕の日記 6月1日の行間
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伯爵邸の庭でハーブの摘み取りと、サンザシの実を採っていたリディアは
「リディア様、お茶の時間になりました」
のケリーの声を聞き、仕事を切り上げ、邸に入っていた。

ティールームへ入ると、エドガーを始め、子供たちは既に部屋におり、リディアが最後であった。

「ごめんなさい、遅くなっちゃって」
「リディア」
「「お母様!」」
リディアは家族を待たせてしまったと思い、謝ったのだが、
「お母様、大丈夫だよ、僕も今来た所だから」
と、一番性格が母親に似た長男のティルが、彼女をフォローした。
「ありがとう、ティル」

いつも彼は伯爵家の緩衝材だ。リディアのフェアリードクターの仕事も少しずつだが手伝い始めているし、妖精が見える所も彼女に似たものだから、リディアの気持ちをよく理解している。

ただ、そのせいで、父親から焼餅の対象になったり、八つ当たりされたり、下の弟妹達からは何かと頼られたりと、割と貧乏くじを引く所もあるが。そういった所もリディアに似ている点でもある。ただ、外見はやっぱり父親の遺伝子が強いせいか、エドガー似なのだけれど。

ちょっとほっこりしたリディアだったが、急に横から何かが飛びついて来た。
こんな風に左右から飛びついてくるのは双子の息子達だった。彼らはシンクロしてリディアに構ってくる。まだ幼いのだけれど、リディアはこの双子の兄弟が一番エドガーの性格と外見と血を色濃く引いていると思っている。

ただ、父親のように悪党ではなく、単なるいたずら好きなのだが。

「どうしたの?」
リディアは幼い双子の顔を見た。
…何だか瞳がキラキラしている。これは何か企んでいる…ような気がする。
母親になって何年も経つと子供たちの考えている事や、様子が、瞳を見ればわかるようになる。

…何年経っても瞳を覗き込んでもわからないのは灰紫の瞳と金髪の髪を持つ、この屋敷の主であり夫であるエドガーなのだが。
彼だけは何年経ってもリディアの予想を超えてとんでもない事をしでかすからいつまで経っても油断ならない。
そんな彼をちらりと見ると、彼は何やら書籍を読んでおり、リディアの視線には気づいてないようだった。

とすると、彼は今回は関わってないようね。
リディアは安心して彼らの話を聞こうと訊ねてみた。が。

「お母様に似ている妹が欲しいなぁ」
「え?!あたしに似ている…?」
「「うん」」
そう言って彼らは話を続けた。
「だって、お母様に似ていたら絶対に可愛いと思うんだ!」
「もちろん僕らはお父様に似ている妹たちも大好きだけど」
「でも、僕たち兄弟はお母様に似ているのが少ない」
「だからね」
「「お母様、妹がほしい!」」

そう言って彼らは話をした。しかも輝くような笑顔で。
え…?藪から棒に、なぜそんな話が…?
しかも欲しい物が品物でなく、彼らの妹だという。
それもリディア似だと。

リディアは焦って戸惑ってしまう。
「あの、あのね、そんな簡単に妹は手に入らないのよ」
と、言い訳にもならない事を言ってみたのだが、双子の息子達がそんなことで引き下がる訳はない。
「大丈夫、お母様なら妹を作れるよ」
「僕は早いうちに欲しいなぁ」
「ねぇ、何時頃出来そう?」
そう言って双子達はリディアのお腹を摩った。

ちょっと、そんな無理難題を急に言われても…。
しかも作れるって…。クッキーやケーキじゃないのよ。

この場をなんとか乗り越えようと必死になってリディアは頭を巡らすが、焦ってしまい、何もいい案が思いつかない。そうこうしている内に、双子達は、リディアのお腹に耳を当て、「もうお腹にいるかもよ」「いるかな?」「おーい、僕がお兄ちゃんだよ」などとその気になっている。

困ったリディアは助け舟を出して貰おうと、エドガーの方を向いたが、彼は久しぶりに双子たちの意見に非常によく賛成しているようで、何だかリディアを見る視線が生ぬるい。というか、欲情し始めているようにも見える。

…まずい、まずいわ。今、エドガーに助けて貰おうとしたなら、大変な事になるわ。

リディアは自分で何とかこの場を乗り切る事を考えた。

「あのね、残念だけどもう妹は出来ないと思うの」
「「え?何で?」」
双子達は驚きを隠さずリディアを見た。
「あ、あのね、もうこんなに可愛い息子や娘が沢山いるから、私は十分なのよ」
「「え〜」」
「あと、それにね、もうお母様は多分子供を産めないと思うの、そこまで若くはないし。赤ちゃんは母親が若くないと産むことが出来ないの。だからごめんなさいね」
「何で?」「お母様は若いよ!」
案の定、双子達は猛烈に抗議した。

そんな母親の困っている姿を見ても、夫のエドガーはまだ助けようとしない。むしろこの展開を楽しんでいるようにも見える。ティルはそう判断した。

確かにお母様は、沢山子供を産んでいる。貴族社会ではありえない位の兄弟の数だ。ただ、ティルはそれに関して不満はない。兄弟が沢山いても自分達は幸せだからだ。貴族の友人の中には兄弟が腹違いや、父親違いなど割とある事だし、兄弟が仲がいいというのも多い訳ではない。むしろアシェンバート家が珍しいのだ。

もともとお母様は子供が好きだったようだが、多分ここまで沢山作ろうとは思っていなかったに違いない。子供が沢山出来たのは単に父親の努力の賜物、のような気がする。

僕の父親は母親を溺愛するあまり、愛情表現が過剰すぎる気がする。多分、今だってほぼ毎日お母様といちゃいちゃしているに違いない。お母様はお父様ほど体力がある訳ではないから、その辺りはお父様が加減しているようだが、それでもお父様はお母様を求め過ぎていると思う。というのも、今でも朝食の時間にお父様だけがテーブルにつき、お母様が起きてこられない事がままあるからだ。

…もう僕はその辺りの大人の事情を知っているから、暗黙の了解だけれど、多分、下の兄弟たちはお母様が起きてこられない理由は妖精の魔法がかかっているか、妖精を助ける仕事をしているか、としか理解していないに違いない。だけど、そんな時、時折見せるお父様の満足だっ!昨日はやりまくったぞ!みたいなだらけきった表情を見たら、彼らももう少し年を重ねたら理由が分かるに違いない。

に、しても、何でお母様はこんな鬼畜のような悪魔ようなお父様と結婚したんだろう?自分の父親に対してこんなことを思うのも不謹慎だけれど。それに、お父様の求めに毎夜毎夜答えてあげているのも凄い。…というか、お父様からはもう一生逃げれないか。

ま、僕も双子達と同じように、お母様似の妹が出来たら嬉しいから、お母様には申し訳ないけど、ここは様子を傍観してみよう。などと、紅茶を飲みながらティルは考えていた。そしてチラッと父親の顔を見たら、何か灰紫の瞳がきらっと光ったように見えた。
これは…。
僕は少しだけ面白くなった。

「リディア」
ちょっと甘めの口調で、しかも笑いを噛み締めながらエドガーは遂にリディアの助け舟を出した。
「何?」
なんだかお母様は焦っているように見える。
「彼らもああ言っているし、やっぱりもう一人、子供を作ろうか?」
「えっ?」
「お父様、作ってくれるの?」
双子達はきらきらした笑みを父親に向けた。
「う〜ん、作るのは僕じゃない(半分は僕も作るが)けど、君達はどうしても欲しいんだろ?」
「「欲しいっ!!!」」「私達も欲しい!!!」
様子を伺っていた他の兄弟達も双子達と同じように同時に答えた。
「えっ?」
全会一致の欲しいコールに、お母様は退路を絶たれてしまった。

…お母様、ご愁傷様です。

僕は紅茶のカップをソーサーに置きつつ、心の中で呟いた。

お父様はそれはもう悪魔のような極上の笑みを浮かべて次の言葉を告げた。
「ただね、お母様の言う通り、すぐには出来ないと思うけど、待つことは出来るかな?」
「「「「「出来る!!!!!」」」」」
満場一致だった。もうお母様に選択の余地は無くなってしまった。
「じゃ、決まりだな。お父様がお母様と相談して、早く君達に妹が出来るように協力するから」
「「「「「わ〜い!!!!!」」」」」
双子達は飛び跳ねて喜んでいる。そして他の兄弟達と手を繋いで輪をかいて踊りだした。よっぽど嬉しかったんだな、と僕は思った。
に、しても気の毒なのはお母様だ。何だか心なしか顔が青ざめて見える。そんなお母様を見かねてお父様は紳士らしく、お母様の腰を抱いて倒れないように支えた。

…多分、しばらくはお母様と会うことは出来ない気がする。
そのティルの思いは次の日、現実のものとなった。



☆おまけ

双子達がリディアに妹をねだったのはからくりがあったが、リディアは勿論、ティルも気づかなかった。

午後のティータイムに昨日から作っておいたリディアの手作りのお菓子が出ると、厨房で聞き耳を立てていた双子達は、早目にありつこうと、早々にティールームへ来たのだったが、そこには既に父親が来ていた。
お母様の手作りのお菓子が出る時は、必ず一番にいるであろう父親を出し抜こうとするが、未だかつて父親が屋敷にいる時は、彼より早くこのティールームにいる事が出来ない。その事に双子達はいつも不思議に思うが、父親とはそういうものだと思っている。

エドガーも大体自分の次に来るのは双子達と知っている。そこで彼は持っていた書籍の中に絵を忍ばせ、楽しそうに書籍を読んでいるようにみせた。

案の定、双子達はかかった。
「「お父様、その本面白いの?」」
部屋に入るなり、好奇心旺盛な双子達はエドガーの所に来た。
「うん、見るかい?」
「「見る!」」
そう言って見せたのはリディアの小さい頃を模した絵だった。まだ4〜5歳位のようだが、髪をツインテールにして、可愛らしくニコと一緒に座っている。

「可愛い〜!」「これ、お母様の小さい頃?」
「そうだよ、ポールに描いて貰ったんだ。可愛いだろ?」
「可愛いいなぁ〜!」「欲しい〜!」
「残念だけど、これはお父様の宝物だから、君達にあげれないけど、代わりにもっといい方法があるよ」
「「なになに?」」

よし、乗った!

エドガーは心の中でガッツポーズをした。
「お母様に君達の為に妹を作って貰うんだ」
「そうか!」「お母様に似ている妹だね!」
お父様は頭がいいなぁ〜、早速お母様におねだりしようなどと、双子達は大はしゃぎだ。

そんな双子達を見て、エドガーはほくそ笑んだ。

僕がねだっても最近のリディアは、もう子供は十分よと言ってたから避妊していたけど、流石に子供達からねだられたらお人よしのリディアの事だから、うんと言わざるを得ないだろうな。ここ近年はリディアの言う事を聞いて素直に避妊をしていたけど、やっぱりたまには避妊抜きでリディアを堪能したいし。でも、すぐ妊娠しちゃうとそれもお預けになるから、色々と加減しないといけないなぁ。

と、やっぱりエドガーの方が何枚も上手だったのでした。
 

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