聖者の行進

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『ルーク、起きろ〜』


なかなか起きないルークをラゼルはべしべしと叩く

力はそれなりに入れているから痛いだろう


「痛てぇ…!」

『おは、ルーク。そろそろ出発だよ』


ゆるりと身体を起こすルークにそう声をかけてラゼルは立ち上がる

ルークが不機嫌そうなのは多分私が叩き起こしたせいだろう

ラゼルはルークが起きたので踵を返してイオン達の所に戻ると、入れ替わるようにティアがルークの元に行った


『あ、ジェイド。私の事、戦力として数えてくれて構わないから』

「よろしいですか?」

『守られるだけは性に合わないもの』


戦いを見ているだけなんてつまらない

私だって戦えるのだから問題はないし、戦力は多い方がいいだろう


「わかりました」

「いいのかよ…」

「本人がいいと言っているんですから問題ないでしょう」

『そーだよ、ガイ。心配しなくても大丈夫!』

「ラゼル、無茶しないでくださいね」

『わかってるよ♪』


そんな話をしているとルークとティアがこちらに来た


「ルーク。この先、私とガイとティア、ラゼルで陣形を取ります。貴方はイオン様と中心にいて、もしもの時には逃げてください」

「え…?」

「お前は戦わなくても大丈夫ってことだよ。…さあ、行こうか」


ガイがルークの肩を叩いた

ジェイドが踵を返し、その後にイオンが続いて歩き出す

ティアは私が陣形に加わる事に不服そうだが先手を打って大丈夫だからと笑顔でごり押しした


「ま、待ってくれ!」


ルークの制止の言葉に足を止め、振り返る


「どうしたんですか?」

「…俺も、戦う」


そう口から出た言葉は僅かに震えていた

ジェイドはポケットから手を出すと、中指で眼鏡の位置を直す


「人を殺すのが怖いのでしょう?」

「…怖くなんかねぇ」

「ルーク。無理しないほうがいいわ」

「本当だ!」


そんなのは嘘だと此処にいる誰もがわかっただろう

昨日あれだけ怖がったのに今日にはもう平気なんて、あり得ない

そんな人は異常だ

誰だって人を殺す事は少なからず怖いのだから…


『嘘、吐かないで』

「…そ、そりゃ、やっぱちっとは怖ぇとかあるけど…」


少しの沈黙の後、ルークは言った


「…戦わなきゃ身を守れないなら、戦うしかねぇだろ!俺だけ隠れてなんかいられるか!」

「ご主人様、偉いですの!」


ルークの足元でミュウが飛び跳ねたが「お前は黙ってろ!」と一喝され、しょんぼりとうなだれる


「と、とにかく、もう決めたんだ。これからは躊躇しねぇで戦う」

「…人を殺すという事は、相手の可能性を奪う事よ?」

『それがたとえ、身を守るためでもね』

「恨みを買う事だってある」


ラゼルとガイの言葉にティアは頷き、更に続ける


「あなた、それを受け止める事ができる?逃げ出さず、言い訳せず、自分の責任を見つめる事ができる?」


そう詰め寄るティアからルークはすっと視線を外した


「お前も言ってたろ。好きで殺してるわけじゃねぇって」


顔を上げてルークは皆を見回した


「決心したんだ。皆に迷惑はかけられないし、ちゃんと責任を背負う」


きっとルークはその意味をわかっていない

そう思ったのはルークの次の言葉が「ヴァン師匠に恥をかかせる事になる」だったからだ

そんな理由で戦い続けられるなんて思えなかった


「でも…」

「いいじゃありませんか、ティア」

『そうだよ。ルークの決心、見せてもらお?』


罪の重さにたえきれず潰れてしまうのか、そうじゃないのか


「無理するなよ、ルーク」

「ああ…大丈夫だ」


それは自分に言い聞かせるようだった



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