聖者の行進

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フーブラス川を横断中に障気が吹き出してきたのには驚いたが、それ以外には何事も無くカイツールに到着する事が出来た

因みにフーブラス川で障気を消したのはティアの譜歌ね


『アニスは……。あ』


入り口の反対にある門のような施設に立つ門番の兵士に哀願するように身を揉んでいるのは、どう見てもアニスだ


「証明書も旅券もなくしちゃったんですぅ。通してください、お願いしますぅ」

「残念ですが、お通しできません」

「…ふみゅぅ〜」


首を振る兵士にアニスはがっくりと肩を落とし踵を返す

歩きながらちらりと後ろをもう一度振り返って涙目になったが、やはり通してくれる気がないとわかると、目が吊り上がり明らかに、チッ、と舌を打った


「…月夜ばかりと思うなよ」


凄みのある低い声に、アニスの本性を知らないルーク達はぽかんとしていた


『アニス、ルークに聞こえちゃうよ?』


クスクスと笑いながらラゼルが言うと、アニスはぎょっとして顔を上げた

一瞬固まったが、次の瞬間にはアニスは両拳を口に当てるようにして身をくねらせ、ととと、と内股で走ってきた


「きゃわーんvアニスの王子様♪」


殆ど体当たりでアニスに抱きつかれたルークは危うく倒れそうになる

やっぱりアニスは楽しいね


「ルーク様ぁvご無事で何よりでした〜!もう心配してました〜!」


百八十度態度の変わったアニスを見てガイが「女ってこえー」と呟いていた

私も女だけど、女は怖いと思う


「大変でしたね。アニス」

「ええ。もう少しで心配する所でしたよ」

「ぶー。最初っから心配してくださいよぉ」

「してましたよ?親書がなくては話になりませんから」

「大佐って、意地悪ですぅ」


ジェイドの言葉にアニスは思い切り頬を膨らませ、ルークに回した手に力を入れていた


「タルタロスから墜落したって?」

「そうなんです。アニス、ちょっと怖かった…てへへ♪」


可愛らしく言っているが上げていた悲鳴(?)が「ヤローてめー、ぶっ殺す!」じゃね…

取り敢えず、そんなこんなで無事アニスと合流し、ガイの紹介も終わった


「ところで大佐。どうやって検問所を越えますか?私もルークも旅券がありません」


国境を越えるには国が認めた身分証が必要になるが…持っていないのか

私はちゃんと持ってます

ジェイドがそうですね、と呟いたその時


「ここで死ぬ奴に、そんなもんいらねぇよ!」


ふっと影が落ちると同時に、声が頭上から降ってきてルークが横に転がった

先程までルークがいた場所に刺さる剣と黒の法服、真っ赤な髪の男、アッシュ

アッシュは舌打ちをし、剣を引き抜きルークに向かい振り上げたが、それはラゼルが音叉で阻んだ


「お前っ!?」

『や、アッシュ。…何してるのかな?』

「…」

『退いて、アッシュ』

「……チッ」


舌を打つとアッシュは身を翻してあっという間に消えてしまった

全く…いきなり襲ってくるなんて、何考えてるんだか…


「ルーク、今の避け方は無様だったな」


知っている、第三者の声

振り向けばヴァンがいた


「師匠!」

「すみません、ラゼル様」

『何の事?アッシュの事なら気にしなくていいから』


口だけの謝罪なんて欲しくないし、ヴァンの所為ではない


「ヴァン!」


張り詰めたようなティアの声

見るとティアはナイフを構え、ヴァンを見ていた


「ティア、武器を収めなさい。お前は誤解をしているのだ」

「誤解…?」

「頭を冷やせ。そして、私の話を落ち着いて聞く気になったら、宿まで来るがいい」


ティアに背を向け、ヴァンは宿へと歩き出した

てかさ、ダアトからの任務ほったらかしにして、ルークの捜索している事に対してと、長期間ダアトを留守にした事に対しての説明をしろよって感じだね


「ティア」


イオンの声にティアは体を震わせる


「ここは、ヴァンの話を聞きましょう。わかり合えるチャンスを捨てて戦う事は、愚かな事だと、僕は思いますよ」

『……』


わかり合える相手なら、ね

ティアは押し黙り、顔から表情が消えた

そして、ナイフをしまうと、どこか余所余所しくローレライ教団員の行う礼をした


「…イオン様のお心のままに」




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