聖者の行進
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船がカイツールの軍港を出たのは、翌朝の結構早い時間だった為、ラゼルは閉じそうになる瞼を必死に上げ、ふらふらしながら連絡船キャッツベルトに乗り込んだ
ラゼル以外は至って普段通りに元気なのが不思議でたまらない
なんで皆眠くないの?
「やーっと帰れるか。何気に大変だったな」
「…まだ安心はできないわ」
「なんでですの?」
「神託の盾の襲撃があるかもしれない」
ミュウの問いに、ティアはそう断定的に答えた
確かにティアの言うとおりそれはあり得る事だ
「なあ、ルーク」
「あ?」
ルークは壁の所に立っているガイを見た
「お前、俺と初めて会った時の事、憶えてるか?」
「んだよ、急に。憶えてねぇっつーの。誘拐される前じゃんか」
「そうだよな」
そりゃそうだ
ガイと初めて会ったルークはルークじゃないのだから
「うん。お前、全然違うもんな」
「はぁ?」
「いや、お前がお前でよかったって事だよ」
ガイがそう言い、笑って、同意するようにジェイドがそうですね、と呟いた
「んだよ」
「もしも、自分が自分でなかったらどうします?」
…ジェイドは気付いているのかもしれない
でもまだ確信は持っていないみたいだけれど
「はあ?あんたまで何言ってんだ?」
「いえ―そうですね。忘れてください。我ながら、馬鹿な事を聞きました。ところでルーク。謡将から聞いたらのですが、貴方は正式な第七音譜術士ではないとか?」
「そういや、ティアも前に第七音譜術士がどうとか言ってたな。それって結局何なんだ?」
うーん…これは世間知らずで済まされる範囲では無い気がする
「家庭教師に習わなかった?」
ラゼルの気持ちを代弁したようなティアの問いに、ルークは鼻を鳴らした
「他に憶えることが山ほどあったんだよ。……親の顔とか」
ティアが驚いたような表情になり、目を瞬き、視線を外すとそう、と呟いた
でも、それは七年も前の事で今知らないのとは関係ないだろう
「……全ての物質には、音素が含まれている」
「な、なんだよ、教えてくれるのか?」
ルークは少し茶化すように言ったが、ティアはそれを無視した
「そして、その音素は六つの属性に分かれているの」
『この音素を星の地殻にある記憶粒子と結合させると莫大な燃料になることがわかって、譜術を使ってそれを音譜帯に通して対流させ、世界中に燃料を供給する半永久機関を作ったの』
これが、プラネットストームだ
「む、難しいな。…で?」
「ところが、プラネットストームは六属性の音素と記憶粒子の突然変異を引き起こして、誕生したのが第七音素。これを使って譜術を操るのが、第七音譜術士だ」
ルークは短く唸って、髪をかきあげた
「何だか途方もねえ話だな。でも俺は譜術士じゃねぇぞ?」
「みたいね。だけど、貴方は私と超振動を起こした。それは事実。だから貴方には、第七音素を使う素養がある。これだけは先天的な素養よ」
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