不協和音

□06.兄弟
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雪男に掴みかかる燐
その反動で血の入った試験官が割れてしまう

独特の鼻につく匂いが教室に充満していく

『これは…ちょっとヤバいよね』

教室の一角が破壊され、小鬼が襲いかかってくる

仕方ないな…そう思い聖は少女二人に飛び掛かる小鬼を銃で打ち抜いた
『ケガない?』

二人はこくこくと頷き、雪男の指示に従い教室の外に出た

「聖と奥村くんも」

『このくらい平気』

「話は終わってねー!!」

燐は足で乱暴に扉を閉めて自分のミスでこうなった事を謝った

「…僕にはあれ以上話すことはないよ」

喋りながら銃を操り小鬼を次々と倒していく

『喋る前に手を動かそーよ!』

次から次へ出てくる小鬼にうんざりしながら素早く引き金を引いていく

「そ、そんなことよりこっちのが大事だろ!!」

無数の小鬼に齧られながら怒鳴る燐

「聞け!!」

感情が高ぶったためか炎を放つ

周りにいた小鬼たちは燐の炎に焼かれていく

それでも数が多い

『(ザコが群れると面倒臭い…)』

今二人の会話に入るのはまずいかなぁ、と思い耳だけ傾け敵を倒すことに専念する

「…ずっと知ってたんなら…お前はどう思ってたんだよ!俺のこと!!」

「…どう思ってる…?」

悪魔である以上危険対象だと雪男は吐き捨てる

先程より一回り以上大きい小鬼が現れる 

「復讐?…それとも、父さんへのせめてもの罪滅ぼしのつもりか?」

祓魔師になりたい理由を問う雪男

「…もし本当にそう思ってるなら…大人しく騎士團本部に出頭するか…」

いっそ死んでくれ

その瞬間、雪男は吹き飛んだ

「っ…。何…」

『世の中には言っていい事と悪い事があるのよ!雪』

吹き飛ばす、というより蹴り飛ばしたのは聖だった

勿論、小鬼のいない所にだ

「お前…!ジジィが死んだのは…まさか…俺のせいって思ってんのか!!」

「…違うっていうの?」

立ち上がりながら雪男は言う

『ちが…』
「聖は黙ってて」

いつもからは考えられない強い口調に聖は口をつぐむ

「父さんはずっと兄さんを守ってきた…!」 

雪男はずっとそれを見てきた

藤本獅郎は世界中で唯一サタンの憑依に耐え得る可能性をもっていた

だから常にサタンに身体を狙われていた

強靭な精神で十五年間防いでいたのだ

『獅郎先生は…最強の祓魔師だった…』

「そう。あんな形でサタンの侵入を許す事はなかったはず」

何か精神に致命的なダメージでもない限り

雪男の言葉に燐は何か思い当たるようだった

「お…俺は…」

「父さんに弱みがあるとしたらそれは…兄さんだ」

燐に突き付けられる銃口

いつの間にか、小鬼はいなくなっていた

「兄さんが父さんを殺したんだ」

「…」

『雪…』

雪男が本気で燐に銃を向けるわけがないと思うが、油断はできない

そうなった時は無理矢理にでも止めるだけだ

「俺は…お前の言うとおりバカだから…何とでも言え…!だけどな…」 

燐はもっていた倶利加羅の鞘をゆっくりと抜く

それに比例するように炎が吹き上がった

「兄に銃なんか向けてんじゃねぇ…兄弟だろ!!!」

「兄さん」

燐は先生を殺してない、と言う

気持ちで許せないのは解る、しかし銃を向けてイミがあるのか、と

「撃って気が済むなら撃ってみろ!!」

刀を構え雪男に向かう燐

「!」

「撃て!!!!」

雪男を捉えていると思った燐の刀は雪男の後ろに現れた小鬼を切り裂いていた

「な」

「見くびんじゃねぇぞ。俺はお前とは戦わない」

聖はホッと胸を撫でおろし、燐に近寄った

「…父さんの最後は…どんなだった…?」

銃を下ろす雪男
戦意はなくなったようだ

「…カッコよかったよ」

『燐を守って死んだの』

薄らとだが覚えているあの時のこと 

燐が祓魔師になろうと思ったのは復讐とかじゃない

「俺はただ、強くなりたい。俺の所為で誰かがしぬのはもう嫌だ!!」

燐と雪男は同じだ

強くなりたい、この思いは変わらないのだ


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