短編集

□結果謙也さんに口説かれただけ
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「うざいっちゅーねん!!!」


なんでか知らないけど部室入った瞬間、謙也に突き飛ばされた。


『はあ!?』


わからないまま部室のドアの前にズシャリと頭から着地。


「え!?ああああああああああみなと!!!」



『いたたた』



「すまん!!怪我してへん!?」


駆け寄ってきた浪速のスピードスターの腕を思いっきり振り払った。


『うざくて悪かったな!!!!!!!!!!!!!!』



擦りむいた傷がジンジンと痛んで目に涙が浮かんだ。




「お、謙也にみなと。ってみなと泣いとるやん!!!」

後ろから白石の声がした。


『しらいしっ…グスッ、うわあああああん』


とりあえずしゃがみ込んできた白石のジャージを掴んで号泣。



なんで謙也に突き飛ばされなきゃいけないの。




「おおよしよし。どないしたん?」



喋ろうとしたら嗚咽ばっかで何かキモかったから黙って首を振った。


「謙也。」


「…………………はい。」


「なにしたん?」


「…………………………。」



「俺のみなとになにしたん?」


「俺のってなんやねん!?付き合ってへんのやろ!?」



「こないに泣かすんやったらどこぞのヘタレなんか応援したらんぞ。」



「……………すまん。」




「せやから、なにしたん?」



「……………。」


「なんやて?」


「……………………突き飛ばしました。」



「よし、みなと。俺と付き合おな?」


『じら゛いじいいいい』

ぎゅうってしてくれる白石に抱きついたら頭撫でられた。


「あかんあかん!!!!!!」


慌てて私と白石を離す謙也。





「みなと、違うねん!!!突き飛ばしたかったのはお前とちゃう!!!!」



「なにがちゃうねん?」



鋭い白石の視線に謙也はぼそぼそと言葉を紡ぐ。


「俺んこと、諦めん女の子がおってな…、ストーカーみたいなことされるから…。」


「ほんでその女の子と勘違いして可愛い可愛いみなとを突き飛ばしたんか。」



『げんや゛のばかああああ』



「みなと。」



白石がそっと私を抱き締めた。

「ええから泣き止まなな?」


『…う゛ん…。』


ゴシゴシと涙を無理矢理拭ったら、謙也と目があった。


「みなと、」


『謙也?』


「すまんな。」


ショボーンと小さい声で呟く謙也にいつもみたいな元気はなくて叱られた犬みたいに部室の中に入っていった。



『、しらいし…』



「わかっとるよ。」


白石はパッと手を離して部室の前からどいた。






『謙也!』




机に伏せてる謙也に声をかけると、ん…、と顔を上げた。



『ごめんなさい。』



「みなとがあやまることないわ!!」






『…謙也、モテるもんね。』


ちょっと皮肉をこめて呟いた。


だって悔しかったよ。




謙也のこと好きな子は他にもたくさんいて、その愛は誰が大きいとか多いとかじゃなくて。



私じゃ到底かなわない。




「なんで、泣いとんねん。まだ痛いん…?」



『泣いてなんか…っ!』


頬に涙が伝うのと、謙也が私を抱き締めるのが同時だった。





「俺は、おまえ以外いらん。」



『え、?』



「白石が好きならそれでええから、突き飛ばしたんも謝るから、せやから嫌いにならんといて。」




ばくばくと心臓が私を攻める。



『け、んや…?』


「好き。好きやで。」






謙也の声は小さすぎて、聞き逃してしまいそうだった。

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