短編集2

□生きている証を
1ページ/1ページ


つまんない、全部。




なにしてんの、私。









誰かと分かり合いたいだなんて図々しいことは考えてないけど、


ただなんだか胸の奥がムシャクシャして、痛くて。








屋上のフェンスを乗り越えて、校舎のふちから足を下に伸ばす。









滑ったら、死ぬ。












ただ、この座った体制は安定していて、そう簡単に滑らないことを自分で解っている









死ぬ勇気なんて、ないの。













勇気?













勇気って、なんだっけ。
















目を瞑って、上を見上げる。















人の気配がした。



いや、数分前からしてた。









気付かないふりをしてた。





誰か、なんて知ってた。











「先輩、」



『なに、財前くん。』



フェンスを越えて話しかけてきたのは、財前くん。


下の名前とか知らない。


屋上によく来るから覚えた。











「今度はなにがあったん?なにされたん?」



『何も。』



「今、俺が助けたるから、落ちたらあかんで。」





ゆっくり近付いて、抱き上げられる。




「自分でフェンス越えて、こっち来てください」



無視してもいいんだけど素直に安全な場所に移動した。




風にあたってたからかな。


震える。








『別に、死なないよ?』




「死んだら、いやや。」



正面から私を抱き締めて、財前くんは声を震わせた。






『死なないよ。』




「側に、いたる。」




『いらない。』




「嘘や。」




『なんで』




「人が欲しくて欲しくて仕方ないくせに」




『…いま暇?』




「はい」




『じゃあさ、』




「離さへんから安心してて」




『いらない、よ』





小さく呟いた私を優しくずっと抱き締める財前くん。






ふいに頬に温かいものが、ぽた、と落ちた。






『泣いてるの?』







「もう、こんなこと、せんでください…。」



『だから、死なないって。』




「死んだら、嫌」



『死んだり、しない、』




私の声も震えて、



自分に言い聞かせるように呟いた言葉。










「すき、すきや。」




『財前くん、』




「すき。」









『寂しかったよ、』









彼の背中に手を回した瞬間、心臓が飛び上がるように鳴った。








生きてる、生きてる。


















[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ