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□思いよ、届け
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2月。

女子にとって一年に一度の勝負の日がある。それは私にも言えることで…。2月14日、バレンタインデー。
女の子が好きな人に思いのこもったものを渡す、イベントみたいなこの日。でもこの日ぐらいじゃないと私は思いを伝えれない気がする


『材料は買ったし、あとは作るだけだ…。』


12日、材料の買い出しのために近くのスーパーへ
お菓子を作るためにカゴの中には材料がたくさん、重いカゴを持ち直しレジへと向かうときある人物に声をかけられた。その人がいるなんて思わない私、心臓がうるさいぐらいドキドキしている。
ゆっくりと声のした方に振り向く


『お、奥村くん』
「こんにちは咲稀さん、偶然ですね。こんなところで会うなんて」
『うん、奥村くんもスーパー来るんだね。晩御飯の買い出し?』
「兄さんとじゃんけんして負けたからね、罰として買ってこいってお使いを。咲稀さんは…お菓子の材料?」
『あ、その…バレンタインデー近いから。作ろうかなって…』
「……そうなんですか、咲稀さんからもらう人は幸せ者ですね。」


ちょっと声のトーンが下がったことに気がつき咲稀は顔を少し伺うように雪男を見る
雪男はにこっと笑うと、また明日と言って買い物の続きをし始めた
なんで、なんで寂しそうな顔をしたの?そう聞きたかったが、怖くて聞けない自分
小さくなっていく彼の姿が見えなくなるまで咲稀はそこを動けなかった




13日
学校から帰り、キッチンに立つ
友達はもう寝てしまったころ、私の手作りお菓子は完成した
思いをこめたこのお菓子、彼は受け取ってくれるかな??


14日
朝から女の子達は張り切っていた、もちろん私もちゃんと持ってきた。
ただ…


「奥村くん!受け取って!!」
「あ、ありがとう。」
「私のも受け取ってください」
「うん、ありがとうね」


私が渡したい人は、たくさんの女の子が周りにいて渡したくても渡せない。いつか渡せると思って、チャンスを伺ったが放課後まで彼が一人になる事はなかった


『渡せなかった…』




一人公園のブランコに座り、作ったお菓子を見て小さなため息
せっかく作ったのに、渡せないなんて…。あんなにたくさんもらってたし、私のもあげたら迷惑だよね。

『食べちゃおうかな』

「食べちゃうんですか?」
『?!』


一人だと思っていたのに、横には何故か雪男がいる
テンパりそうになりながら、お菓子を背に隠す


「渡さないんですか、せっかく作ったのに」
『渡したい人はもうたくさんお菓子とか貰ってて、私のあげたら迷惑かなって』
「そんなことないと思いますよ、咲稀さんの気持ちが篭ったお菓子なんですから」
『………ほんとに?』
「はい、きっと!」


咲稀は背に隠したものを目の前に持っていき、意を決したようにブランコから立ち上がる
そして雪男と向かい合い目の前に差し出した



『受け取って、ください…!』



言えた。
思いも一緒に彼の手に届いたらいいな…。そんなことを思いながら、私は奥村くんが受け取ってくれるのを待つ
だが私が待っていたものとは別のものが私に返ってきた
腕を引かれいつの間にか彼の腕の中にいた。わけが分からず、何が起きてるかわからない
でも彼の声で要約状況を把握した


「ありがとう、嬉しいよ咲稀。」




抱きしめられていること、耳元で彼が囁いた私の名前
すべてが、夢のようで…。
 

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