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□0007:彼が描いた天国に住みたかった天使のような少女
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笑顔で彼女が言い切った。






「私ね、天馬くんや円堂監督と同じ夢がみたいっ!」







だから私、フィフスセクターを裏切りたい。

そう笑う彼女、我が雷門サッカー部マネージャー。
というか、俺の彼女。






はじめから一緒に戦ってきた。
はじめて管理された試合が行われたとき、俺の隣にずっといてくれた。




篤志は強い。
そう言って、俺なんかのために泣いてくれた。




それだけで、どれだけ救われただろうか。






名無しさんがいたから続けられた。
管理されたサッカーも悪くないと思えた。





隣にいて、ずっと手をつないでいてくれる。
そう、勝手に思い込んでいたんだ。




簡単にするりと指がほどけた、








「正気か?フィフスセクターに逆らったらマネージャーだってどうなるかわからないんだぞ!」

「大丈夫だよ、みんないるもん。」








今日の試合を見て思ったの、天馬くんも信助くんも神童くんも三国くんもいる。

マネージャーだって、全員味方。




みんながいるから、怖くないよと笑った。






・・・俺は?

名無しさんは、俺なんかいなくても。

俺なんかいなくても、十分幸せなのか?







「だから、篤志。一緒に戦おうよ」







私ね、篤志のサッカー大好き。
自由に楽しそうにサッカーする篤志がみたい。





将来なんて考えなくてもいい、なんとでも生きていけるよ。






ああ、やっぱり俺は必要なのか。





なら、なんて壮大な綺麗事。
将来なんていらない、いまがほしいのと名無しさんは笑う。





でも。
俺は。









「名無しさんは、どんな俺でも受け止めるのか?」

「うん、当たり前じゃん私、篤志のこと好きだもん。」








目の前で楽しそうに笑う名無しさんを不幸にすることなんてできない。




将来の話。
いい高校に入り、いい大学に入る。
そんで、いい会社に入って。
収入が安定したら名無しさんにプロポーズするんだ。




笑い泣きを何度想像しただろうか。

一番名無しさんを幸せにしてやれるだろう瞬間。






それを失うのは、嫌だ。








「名無しさんは、俺についてきてくれるのか」

「うん。ねえ、革命に参加しよう?
いい会社に就職できなくったって内申が悪くなったって生きていけるよ!」








ああ、彼女はなんて綺麗事を吐くのだろうか。

とても残酷で、とても優しい綺麗事。
逃げ出したくなる。





ああ、折れそうにさえなる。








「篤志?」

「正直な、」








はじめ、フィフスセクターが雷門を潰そうとしたとき。








「ふざけんなって思った。」







だからフィフスセクターから派遣されてきたチームと試合をした。
雷門中サッカー部をつぶしたくないと思った。








「私も一緒だよ。」






でも、ごめんな。






「俺、サッカーやめる。」

「えっ・・・」






ごめん。







「名無しさんは自由に、してくれていいから。」

「っ・・・じゃあ、わ、たしも」







本当にごめん。








「私も、篤志と一緒に・・・やめるよ。サッカー。」









名無しさんが俺を一人にしないことなんてわかりきっていた。

俺がやめると言えば名無しさんもやめると言う。






わかって、言ったんだ。

なんてずるい奴。






どうしても手放したくないと思った。
嘘が嫌いな綺麗事信者に嘘をついた。








[彼が描いた天国に住みたかった天使のような少女]








俺にせいで、全部台なし。
 

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