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□0008:死刑台へようこそ
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大罪人。


犯した罪は数知れず、まぁ、ほとんど殺人。




魂を無差別に食らい、強くなろうとした。







「・・・よーす、キッド久しぶりぃ?」





狂った私を咎めたのは同じクラスの級友で・・・ああ、私が一方的にそう思ってるだけだけれど。


どうせ彼は私のことを級友だなんて思っていない。

だって彼は死神なのだから。




彼は、神なのだから。






「どうして、名無しさん・・・」






そんな言葉を投げかけられて私は思わず笑う。
どうして?

そりゃあ、わからないだろうなぁ。







「生まれ持った才能」






ぼそっとつぶやくように大きく息を吸って言う。


そしてツカツカと私に銃を向けるキッドに近づく。


どうせお前には撃てやしない。




きっちりかっちりしないうちは、撃てやしない。







「いいなぁ、ずるいよねぇ?私、ずっとその才能ってやつがほしかったんだよぉ?」





語尾を無駄に伸ばしながら私はそう言ってキッドの胸倉をつかんだ。
ずるいずるい、と笑ってキッドの銃を奪い取った。





銃、つってもリズとパティーなんだけど。






「才能なんかなくってもあんたたちは才能があるご主人様がいる。
いいよねー。」





そう言って二人を投げ返す。




キッドは意味がわからないといったように私を見る。


だって、そうだろう?





自分ひとりじゃ戦えない。


パートナーもロクなのがいない。





そんな私がどうして、死神さまの為に戦わなきゃいけないの?







「人間って、脆いのよね」






善人であれば善人であるほど弱いのよ。

そして、私はその魂で強くなる。




弱い魂ほど、私は強くなれる。







「力に溺れるってこーいうことをいうのかしらねー?」

「・・・お前、」

「なによ?死神さま」






皮肉を叫んで、私は後方に飛び彼から遠ざかる。

武器を奪われるなんて油断してる証拠だった。
私は、まだ彼の中では彼の仲間なのだ。




なんていらない感情なんだろうか。


狂った私をどうにかして助けようとするだなんてなんて人、いや神。




普通ね、神様っていうのは私みたいなクズは切り捨てるのよ。

力を手に入れたって強くなったって、まだ級友を裏切る勇気がない私なんかすぐに切り捨ててくれればいいのに。




その優しさが邪魔をするのよね。




そしてその間にも私は狂気に支配される。



なんて面白い世界なのかしら?







「強くなりたいっておもった理由なんてない。」

「嘘だろう、お前は」

「本当だよ。だって、なくなったもの」






守りたいものを失った。




それだけ、それだけなの。




そう笑うと、キッドは私に向けていた銃口をそっと下ろした。

殺せない、と首を振る。

そして手を差し出した。







「帰ろう」

「嫌よ」

「みんな、待ってる」






嫌。





言ったじゃない、守りたいものは全部失ったのよ。




もう、遅い。



にやりと笑って私は腕を刃にかえる。

そしてそのまま飛びかかる、キッドが銃でそれを防御する。



力押しで勝とうだなんて思わない、技術で勝とうだなんて思わない。




ただ。







「あの人は生きたかった!!」

「っ・・・」

「私は、私は逝きたかったの!!」





胸に手を当てて、精一杯叫ぶ。

精一杯の助けて。






「目の前で失ったの、パートナーをよ?!
確かに彼女は弱かった、けれど私も弱かった!お似合いだったの、放っておいてほしかったのに!!」





目の前で、失った。




もうなにもない。




死にたかった、それだけ。






そう伝えると、私はキッドにまた近づく。

銃をかまえる彼、私は無抵抗だということをアピールするために刃を仕舞う。


キッドは驚いたように、表情を変えた。







「ねぇ、殺して」







私は大罪人。
何人も罪のない人を殺したわ。



これで、やっと逝けるの。



あの人を地獄で守ることができる。

だから、殺して。





銃口を無理やり喉に押し当てる。
首につけていたネックレスに銃口がかちゃりと当たる。



キッドが口を開いた。






「そうだな、連れ帰ってもお前は死刑か。」

「そうよ。さらし者になるなんて嫌。」

「それなら、仕方が無い。」






俺が死刑を執行しよう。



俺も死神だから、安心して逝けばいい。



その優しさに思わず心が穏やかになる。







[死刑台へようこそ]






ねぇ、この首のネックレスを持っていて。


私の生きた証だから、どうかどうか。






いつか、海に埋めてください。

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