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□0010:理想的な綺麗事
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彼女はまるで自分の夢を語るかのように雄大に物語を話す。


彼女が口にした言葉はすべてが魅力的だった。
でも、






「いつかフィフスセクターはなくなると思うの。
そうしたら自由なサッカーができると思うの。」





だからサッカーが好きな気持ちは捨てないで。
諦めないで。




そんな綺麗事を並べる彼女はいつも笑っていた。







「いつかっていつだよ」

「わからないよ、そんなの」







でもね、その時は。


倉間が隣にいて、一緒に笑い合ってると思うわ。






手を取り合って狂喜しましょう、驚喜しましょう。
長かったと口を揃えましょう、同じ言葉を吐きましょう。




そしたら、きっと幸せね。





そう笑った彼女が脳裏から離れない。
ふふっと笑う笑顔に、そっと俺の手を握る小さな掌。




倉間のサッカー、好き。
だからずっと失わないで。




細い体、柔らかい髪。






いっしょに、夢をみた。

いっしょに、笑って

いっしょに、恋をした。






好きだ、好きなんだ。






今にも壊れそうな君を抱きしめる力がほしいと思った。
髪を撫でる指が、頬を撫でる掌が、ほしいと思った。





ただ、管理されたサッカーに従う俺が彼女に触れてはいけない気がして。





彼女が俺に触れない限り、俺は彼女に触れない。



彼女が綺麗すぎて、汚してしまうような気さえして。



管理サッカーがなくなれば、自然に俺から彼女に触れられる気がしていた。


その時に伝えたいと思った。





好きだ。
ずっと一緒にいてほしい。
好きだ。好きなんだ。








「名無しさんちゃん、見てるかな。」







誰かがふとそうつぶやいた。

俺は最後までフィールドに立てなかった、彼女の名前を口にすることはできなかった。







「・・・見てるだろ、」






誰かがそうつぶやいた。







「倉間先輩、名無しさん先輩に・・・なにも言わなくていいんですか」

「・・・なにも、言えねぇんだ。」







最後までフィールドに立てなかった。
最後まで、一緒に。



手を繋いでいることすら。









「名無しさんちゃん・・・どうして。」








フィフスセクターのシードなんかを助けて、トラックに突っ込んだんだろうな。








[理想的な綺麗事]








敵も味方も関係ないんだ。

名無しさんの前では関係ない。


同じ人間で、それ以上でもそれ以下でもない。






だからだろうな。


そんな君だからこそ、俺と居られた。








「倉間・・・」

「・・・南沢さん、名無しさん、死んだんすよ」








あーあ、なんて壮大な綺麗事。

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