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□0014:兵より花を束ねよう
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とても、くだらないと思うのです。

けれどそんなことを口にすることはできずに今日も私はあの方に従う。




苦ではない、と言ったらウソ。


けれどずっと傍にいられるなら。





「名無しさん監督?」

「ああ、ごめんなさい。今日は基礎練習を重点的に行いましょうか」






こんな腐ったルールの中心で、仲間と一緒にサッカーをやろうとも思えるもんだ。





私は一応少年サッカー管理組織、フィフスセクターの幹部。

聖帝の側近として働いていた。
もちろん、虎丸くんと一緒に革命を手助けするためだけど。


けれど、ここはどうも息苦しい。






「監督、指示を」

「ええ・・・」






私にはある一つのサッカーチームが与えられた。

選手を育成しろとの上の命令だったわけだが乗り気じゃない。




この子たちは、フィフスセクターの戦力でも兵士でもない。
ただの、サッカーが好きなだけの少年だ。
なのに今日も化身に慣れる訓練に、厳しい練習。



私はそんな厳しいメニューは組んでいないはずなのに、選手が無理にメニュー以上のことをしでかす。




やめろと言っても聞きやしない。

聖帝に相談をしても受け入れろの一言。





こんな現実いらない。







「名無しさんさん、辛いのはわかりますが今は・・・」

「うん、わかってるよ。だから余計にね。」





成長期の少年に無理させたくないって気持ちも上にはわからない。
機械のようだとつぶやいて私はくるりと踵をかえす。






「そろそろあの子たちの基礎練習が終わるから行くね。」

「はい、がんばってくださいね」





アンタもほどほどに、と言ってグラウンドに歩を進める。

可愛い教え子。
私なんかにはもったいない、大切な選手。




膝をかかえて泣くことも、自由なサッカーも知らないフィフスセクターの兵士。

ギリッと唇を噛むと血が流れ出す。

どうして。





私たちの、優勝がサッカーを奪ったんだろうか。



あの頃はただボールを追いかけるみんなを見るのが大好きで。
だから、だから。







「・・・名無しさんちゃん?」






急に声が降ってきた。
聞いたことのある声にふと顔をあげるとそこには、神様がいた。






「て、照美くん?!どうして・・・」

「どうしてもこうしても。僕もフィフスセクターだからね。
幹部なのに滅多に会わないよね、名無しさんちゃん忙しいから」





笑顔で私を見据える神は、かつてのライバルで、かつての仲間。

サッカーをしていた、サッカーを愛する仲間。


お互い苦労するわねとつぶやいて照美くんの隣に並ぶ。






「名無しさんちゃんはどこのチームの監督してるの?」

「中学校じゃないのよ、中学生の一般チーム」

「へぇ、僕は木戸川だよ」





木戸川?!なつかしいなぁ、トライアングルだよねと笑うとそうそうとくすくす笑う。



なんだかとても懐かしいような気がした。






「あ、そうだ名無しさんちゃん。木戸川の選手に会わない?」






純真でいい子たちばかりなんだよ。
そう言われて、そうね会いたいなと答える。





ああ、ああ。




結局管理されたサッカーチームなのに。

縋ろうとしている自分がいる。






自分のチームのキャプテンに電話をして、今日は練習を見られないこと、二つのチームに分かれて試合をすることを伝えた。


AとB、勝敗指示は?と言われて自由なサッカーをすればいいと伝える。





少しだけ声のトーンがあがった彼を、私は忘れることができないだろう。

はやくサッカー、取り戻してあげたいなぁ。





照美くんに連れられ、木戸川の生徒が練習しているグラウンドに足を踏み入れる。

するとキャプテンらしい子が私を見るなり集合をかけた。





「監督、こんにちは」

「こんにちは。」

「そちらの人は?」

「ああ、紹介するよ。名字 名無しさんちゃん。
元イナズマイレブンのマネージャーで今も僕みたいにサッカーに携わっている子だよ」





ぺこりとおじぎをするとキャプテンがぺっこー、と深く礼をした。



なんだかかわいらしい子だなぁ、と思いつつ照美くんに名前を聞く。






「貴志部。貴志部大河だよ」

「大河くん。よろしくね」

「なに、この女監督の彼女?」





うわっ、不動くんかと思った。


大河くんの後ろからひょこっと出てきた不動くん似の彼を思わずじろじろ見てしまう。



・・・息子?なわけないよね、不動くん彼女いないし。






「違うよ総介。まぁ、彼女になってくれればいいんだけど」

「ノーサンキュー」

「この調子だから。」





ああ、なんだか。






「あったかいなぁ・・・」

「だろう?名無しさんちゃんも木戸川のコーチになればいいのに」

「やだな、私、今のチームも好きだから」





全員いい子なの。
私が悩んでたら声をかけてくれて。
私が泣いてたら黙って隣にいてくれる。


そんな子たちなの。




そう話すと、照美くんがそうだねと少し声のトーンを落として話をはじめた。






「僕にはフィフスセクターの意図がわからないよ」

「私も。この子たちも・・・駒なんでしょ」





兵士。



そうフィフスセクターは彼らを称する。

そして私たちは兵を束ねる指揮官ってわけだ。



戦争でもなんでもないのに、彼らは戦わされる。



戦争は何も生まない、そんなことさえもわからないらしい。



そして、私もその指揮官の地位にいる。
同罪だ。






「名無しさんちゃんは、革命を考えているのかい?」

「ええ。」

「じゃあ」








[兵より花を束ねよう]





そっちのほうが、きっと僕も君も選手も幸せだろう。





そう言い切った照美くんの意図が一瞬見えなくなった。

でも、一つだけ。







「ええ、一緒に戦いましょうか」






口から自然に出てきた言葉が本音。






数日後、木戸川は雷門に敗れた。
その混乱に乗じて私は、私の大切な選手と一緒に。





フィフスセクターを捨て、革命をはじめたの。

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