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□0015:無表情で口づける心理
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んなこたあ、どーでもいいんだと彼女が笑った。
髪をかきあげてそして足を組んで。


サッカーの今を伝えると、そう言われた。
ショックもなにもなかった。

そんな人だって知っていた。






「優一くんの足のために従ってたんでしょ?やめたの?」

「まぁ、はい」

「そっちのが正しいってなんでもっとはやく気づかなかった?」







結果、アンタは優一くんを少しだけだけれど傷つけたんだと俺に傷をおしつける。


ああ、この人はきっと兄さんが好きなんだろう。
二日に一度は病室を訪れる。


そして泣きそうに笑いながら高校の話を聞かせている。

勉強もこの人が教えている。




兄さんと、同い年の幼馴染。

俺の、姉さんみたいな。





「しかも私に黙ってフィフスセクターですって。」

「すいませんでした。」

「しかもシードって。」

「謝ってるだろ」






年の離れた、彼女。



好きだと名無しさんさんは俺に言葉だけを吐きつけるけれど、兄さんと話をしているときの表情を見ているとそれはきっと嘘なんだと容易に理解できる。


好きだと言葉を吐くたびに。




俺は、どうしようもなくこの人を好きになる。





嘘だってわかっているのに。

どうせ兄さんに似ている俺で自分を満たしているだけ。



それだけだって、利用されてるってわかってるのに。






「・・・京介が連絡くれなくなって。びっくりした。」





嘘ばっかり。





「ごめん、雷門に入学して・・・忙しかったから」

「まぁ、いいけどね」





京介が今楽しくサッカーできてて、仲間がいて。
それならいいや、彼女は放っておいて楽しめばいいと言う。




俺のことを気遣っているふり、本当の頭の中はきっと嘘でいっぱい。

俺を釣り上げるための嘘で、いっぱい。






「・・・名無しさんさん」

「名無しさんでいいってば。年上とか考えないでくれる?」






付き合ってんだからさ。そう笑った名無しさんさんの笑顔にまた見惚れる。


いつ別れてもいいように。
いつでも名無しさんさん、お久しぶりですと言えるように。



いつでも他人になれるように、俺はきっと彼女を呼び捨てにはしないだろう。

別れてしまえば、俺たちはただの年下と年上なのだ。





名無しさんさんは俺の様子を見て、無表情になる。
そして床に座っている俺を、ベッドからわざわざ降りて抱きしめた。




無表情になるたびに、彼女は砂糖を吐く。
甘い言葉を耳元でささやく。




とても無表情にこういうのだ。







「好きだよ、京介。そんな顔しないで。」





京介に、嫌われたくないよ。




そう言っているのに、きっと見えない表情は無表情。


とても感情なく俺に愛を吐きつける。


なんてずるい人。






「俺も、好きですよ」

「ほんとう?」

「本当です」




よかったと耳元で安堵。
でもきっと無表情。



どうせ、これも嘘。
なのに心臓はばくばくと高鳴り始める。



ああ、好きだ。

そう思う。


なのに、一方通行。






「私、年上だから京介のことなんにもわかんないよ。言葉にしてくんないとわかんない。」

「俺も、わかりませんよそんなの」

「怖いんだよ、」






いつかきっと京介の目の前に笑顔がとてもかわいい同世代の女の子が現れる。

そんなとき、とっくに大人になった私。


京介が、どっちをとるんだろうって考えると怖いの。





そう抑揚のない声で言う。





俺は表情を殺して名無しさんさんにキスをした。

すると唇が離れてから俺の顔を見た名無しさんさんは残念そうに眉をさげた。






「また、無表情なのね」

「名無しさんさんこそ」

「私は、」






本気だって、知ってほしいから。


へらへら笑って、遊びだと思われたくないから。

年上ぶって、幸せを出さないように一生懸命。






そう恥ずかしそうに言う。
あれ?と首をかしげていると名無しさんさんが顔を真っ赤にして叫んだ。







「だって、私年上だもん!余裕ないとか恥ずかしいじゃんか!」






ああ、この人は。





「・・・すいません」

「笑うな!」

「無理です。だって名無しさんさんかわいすぎて」

「呼び捨てにしってって言ってるじゃん!」

「・・・名無しさん。」





なんて不器用な人なんだろうか、俺みたい。




急に呼び捨てにして、驚いている名無しさんにいきなりキスをする。

なんて簡単な大人。





[無表情で口づける心理]




それはただの心理ゲーム

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