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□0016:穴のあいたオモチャ箱
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幼い頃、両親が与えてくれた宝物。
大切に大切にすべてをオモチャ箱にしまい続けた。



夢を詰め込むようで、幼い私にとってそれはまるで夢の世界。

いつかお人形のように、キラキラのドレスを着てお姫様になるんだと信じてやまなかった。




そう、そんな夢があったのだ。

もう枯れた話だけど。






「名無しさんすごいわねー、Aクラスで成績5位とか」

「あー、あとの4人は絶対に抜けない。バケモンだわ」






優子と廊下を歩きながら談笑。

確かに私は一応この高校では成績優秀者をやっている。



こんなに真面目に、優秀で。


趣味は勉強、遊ぶことなんて知らない。





そんな大人になっていった私。

幼いころの私が今の私を見たらどう思うんだろうか。


絶望するのかな。
絶句するのかな。

それとも大声で泣き出す?

正しいと賛美する?
早く大人になりたいと口にする?




私は、こんな未来いらなかったけれど。





期待されるだけの言葉、嘘の笑顔。

全てにもう疲れていた私は、廊下を走るFクラスのアホ共を一瞥する。




・・・姫路も馬鹿な奴。
適当に問題を解いていれば、辞退さえしなければCクラスにはねじこめただろうに。


Fクラスで勉強するなんて私なら耐えられないわ。




馬鹿にしたように笑って踵をかえすと、とんでもない衝撃に体がふっとばされた。





「いった・・・」

「ご、ごめん大丈夫?!」





ああ、Fクラスの馬鹿か。





「大丈夫。お気になさらずに」





心配そうに私の顔を覗き込むFクラスの・・・えっと、確か観察処分者。
馬鹿の代名詞は私に手を伸ばす。



それを払うと、観察処分者は笑った。





「ごめんね、雄二は後で殺s注意しておくから」




スッと立ち上がろうとして、足に違和感を覚える。
嘘だ、こんな状況で。






「足くじいたの?!本当ごめん!保健室まで送るから!!」





ああ、最悪だ。

私の知る中で一番最悪なできごとだろう。



ああ、帰りたい。




無理やり立ち上がらされ、肩にもたれる形になる。

目立つことだけはしたくなかったのに。




ああ、今日は塾があったっけ?
そうだ今日はテストがあって、まぁ、勉強はしているからなんとかなるかしら。

それよりも病院に行かなきゃねぇ、めんどくさい。






「Aクラスの名無しさんさんだよね!」

「はぁ、まぁ・・・」

「美人だからすぐわかったよ。本当ごめんね、まさか人がいるなんて・・・」

「私、存在感ないから」






別に気にしてないわよ、どっちかというとFクラスと接触したことのほうが悲しいわ。



そうたたきつけてやろうと思ったけれど、観察処分者の笑顔を見ていたら言えなくなる。


そこまで人間捨てたわけじゃないし、と大人しく観察処分者に引きずられる。






「あなたは、どうして廊下で走っていたの?」

「雄二が・・・って、わかんないよね。
悪友が僕を犠牲にしたから殴ろうと思って」

「あく、ゆう?」






聞きなれない単語に首をかしげると、友達じゃなくて、そうだな、馬鹿なことを一緒にやる親友って感じかなと教えられた。

まさかFクラスの人間に物事を教わるだなんて思わなかった。






「それって、楽しいのかしら」

「え?悪友と馬鹿やるってことが?」

「まぁ・・・そうかな」

「楽しいよ」





本当、殺してやるって思うときもあるけど楽しい。


そう笑った観察処分者。



ああ、そうか楽しいのか。

友人と遊びにいくよりも、きっと馬鹿なほうがたのしいんだろうな。




私は馬鹿にはなれないから。







「名無しさんさんは・・・勉強が楽しいとか・・・?」

「私、勉強なんて嫌いよ」

「えっ?!」






Aクラスなんて勉強大好きなキチガイ集団かと思ってた。




そう本音を聞いて、思わず久しぶりに声をあげて笑う。


キチガイ集団!
確かにそうかもしれないわねと言葉を返すこともできずに笑う。







「名無しさんさん?!」

「ふっ・・・ふふっ。
私も、Fクラスには馬鹿ばかりだと思ってたわ。」






あなたのような人もいるのね。




優しくて、なんだか暖かい人。


そう笑うと気まずそうに彼は私から目をそらす。







「ねぇ、名前を聞いてもいいかしら」

「吉井。吉井明久だよ」

「明久くん。ふふっ・・・キチガイ集団・・・」

「まだそれで笑ってたの?!」






だって、キチガイですもの。

そう笑うとごめんと素直に謝られる。




ああ、きっと彼は優しい人。




ふりまわされて、それでも断れない、そんな人。


私そっくり。






「ねぇ、明久くん。あなたには夢がある?」

「夢?とりあえず今はないかな」

「・・・へぇ」

「名無しさんさんは?」






私の夢は。






「全部こぼれちゃった。」







[穴のあいたオモチャ箱]






夢を詰めようにも下から零れ落ちていく。

拾うこともできずに夢をつめたと満足して眠る。


そして気づいたとき、なにもなかった。







「じゃあ、僕が拾ってあげるよ」

「へ、」

「そしたら夢がまた見れるでしょ?」







ああ、かみさま。


彼が穴をふさいでくれるんだって。



なら、私は。





今日は塾をサボって街から飛び出そうかしら。

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