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□0017:読まれなかった二通目の手紙
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監督という立場から、大切な君へ。





そんな手紙が送りつけられた。
南沢篤志様、と書かれた一通の手紙の封をきる。






監督。
名字名無しさんは、雷門サッカー部の監督をしていた。
まぁ、一時だけだけれど。






急に消えた。




俺が告白して、すぐに消えた。





そんなに迷惑だったなら、直接言ってくれればいいのに。
どうしてなにも言わずに。






そんな彼女から、手紙。


胸が高鳴った。
しかし、その手紙の内容を読み、絶望。

ああ、俺が憧れたあの人は。







「フィフスセクターについたんだとよ」

「へ?」







信じられないというように三国が声をあげた。
車田と天城は口をぽかーんと開けて俺がなにを言っているのか理解できていないもよう。







「名無しさん監督、今はフィフスセクターで。」






フィフスセクターに逆らって廃校になる学校はいくつかあった。


それを聞いて、ふざけんなと笑ってボールを抱きしめる人間。
誰よりも、フィフスセクターを嫌っていた彼女は今フィフスセクターにいる。





管理サッカーは正しいとさえ彼女は言い切った。







俺の憧れたあの人は、もういないと思った。

強くて綺麗で賢明で。
彼女の采配についていこうと思った。

恋をした。

綺麗すぎる姿に見惚れていた。






ああ、所詮あの人も。







「えっ、あの中学校つぶれなかったのか?」






ある日、ある噂が耳に飛び込んできた。

フィフスセクターに逆らった中学校があった。
廃部は確実だと言われていた。





なのに、つぶされなかったらしい。
まぁ、それを聞いても逆らおうだなんて思わないが。






「それが、」







噂。
これは、あくまで噂。




名無しさん監督が自分が監督になって廃部を食い止めたという、噂。



規模の大きいことをいいながら彼女はフィフスセクターとして、監督になったらしい。





噂。




けれど、変わってないと思わず噂に笑った。





彼女は変わらない。
どうせ噂も本当。


こんな馬鹿なことをするのは名無しさん監督くらいだと思った。


フィフスセクターとして、サッカーを守ろうとしてくれたんだ。







二通目の手紙が届いた。

サッカーが好きな、大切な私の選手様へ。






そんな手紙。





きっとフィフスセクターに入った理由がつらつらつら。


二通目は封も切らずに机にしまい込んだ。
そして日常に戻る。






直接聞きたいと思った。

どうしようもなく俺はガキだから、だから。





いつでも彼女に会えると思った。








[読まれなかった二通目の手紙]







数日後、久遠監督が重そうに口を開いた。


名無しさん監督が、消えたらしい。

俺は叫びながら机をひっくり返した。
ひらりと舞う手紙をつかみ、ぐしゃぐしゃになろうが構わずに文字を追いかけた。







拝啓、南沢様。
お久しぶりですね、お元気ですか?







ああ、






フィフスセクターのやり方にもう耐えられないと。
膝を抱えて泣いたんだと。


よろしければ、桜の咲くあの場所で20時に。


よろしければ、私と逃避行のご準備を。

一週間、いいえ三日でいい。






私のやり方が正しいと思うのならば、来てください。








正しくない

と、知らず知らずに突き付けた。







「南沢、その手紙・・・」

「あの人は、」







言いたくない。






「あの人は、正しかったと思うか?」








優しさで首を振る仲間。
あの人は正しかった。

正しかったんだ。







「俺、」

「南沢は悪くないさ。
・・・手紙、読んでなかったんだろ?」






わかったつもりでいたんだ。
どうせあの人なら、こんな手紙を書くだろうって。



好きだから。
誰よりも見ていたから。
わかったつもりでいたんだ。





ああ、俺は。







「あの人は間違ってる。フィフスセクターに逆らうだなんて馬鹿みたいだ」







自分の間違いを正当化した。





そんな俺と完璧に正しい彼女が再開したのは、月山国光が負けたその日の夜、桜の木の下で。







(どうしようもなく救われない話)

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