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□0018:赤く錆びた指
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いくつもの命を奪ってきた。
まぁ、人間しかり蝕しかりもう、思い切りたくさんの命を奪ってきた。


それはとても正しいことなんだと上は笑う。

そう、正しい。


もし、間違っていることがあるとするならば。






「ああ、あああああ!!」





私に罪悪感なんて感情を与えたことが間違い。



人を殺すことなんて余興にすぎない。
神様の余興、暇つぶし。

私は神様の暇つぶし、殺戮人形。




人間は私を警戒する。
蝕が起こっている中で、私は蝕をなぎ倒す。
殺す、殺す、殺す。



けれど、邪魔ならば人間も。




邪険に扱うならばコロセ
鬱陶しく思っているのならばコロセ


・・・助けに入れば、コロセ。





そう言われて、そう命令されて。
私は何人も。




誰も私に近づかなくなった。
私は独りだった。





それでいいと思った。

近寄るな、そしたら私は誰も殺さなくてすむの。






「・・・えっとー、名前忘れたわ。名無しさんだっけ?」





後ろから急に声。

驚いて、飛び退いて。

震えていると、身長の高い男が私に手を差し出した。






「俺、日向な。」

「あっ・・・あ、えっと、その、」

「なんだよ?俺、お前のこと邪魔とか怖いとか思ってねぇぞ?」





思ってたら、お前、俺を殺すんだろ?
大丈夫、俺は味方だから。




そう言われて、震える足を無理やり動かした。

逃げ出した。




まっすぐな瞳に、緑色の髪の毛に、高い身長、すべてが怖かった。


何年人と触れ合ってないんだろうか。

何年もふれあってなどいない。

声をかけられたことも、笑いかけられたことも、ない。





そんな私の錆びついた名前を彼は呼んだ。

どうして、と疑問ばかりが頭をめぐる。




どうしようもないじゃないか、どうしようもないじゃないか!




ずっと閉じ込められて、殺してずっと殺して、それしかできない私に声をかけるだなんて。






「・・・馬鹿げてる、」





言い聞かせた。
駄目だと知っていた。



駄目になる。
血で染まった髪の毛を、血で染まった手のひらを、血で血を洗う過去を、切り捨てることなんてできない。






「おい、なんで逃げんだよ」

「っ・・・来ないで!」





久しぶりに飛び出てきたのは否定の言葉。
刀を彼に向けると彼は両手を上げて降参、と言った。






「殺されにきたわけじゃないんだ。
協力してほしいだけなんだ」

「わ、私を利用するの?!」

「違うって。お前、耶麻を恨んでないか?」






そう言われて、思わず刀をさげた。

恨んでないか?


恨んでるに決まってる。



私をとっつかまえて、同胞を殺すだけに飼われて。
人間に近いというだけでここに閉じ込められて。



そして、邪魔ならば人間さえも。





感情を与えたのは耶麻だった。
私に罪悪感を与えたのは耶麻だった。



余計なことしかしない、彼をもちろん私は恨んでいたさ。




けれどなぜそれを聞く?






「俺と一緒に、いや俺らと一緒に耶麻と戦わないか」





血液が、巡廻しはじめる。

止まっていた呼吸をはじめる。
異常なまでの動悸。






「俺は、お前の味方だよ」






駄目になる、そう思った。





「・・・私は殺戮人形。いつ寝首をかくかわからない」

「やらねーよ、お前、人間大好きだろ」






びくりと体がふるえた。

人間が好きで、好きで。
だからこんなところにいるんだろう。


殺すのが嫌だから時々人間を助けているだろう。

まぁ、逃げられてばかりだけれど。
それでも。







「お前は殺さない。もう、誰も殺さない。」






どうして彼は私にたどり着いたんだろうか。
ああ、政府の人間か?


去年もこうやって私を口説こうとする人間がいたっけなあ。


何年も私を口説こうとしてる人間が現れ続ける。

けど、今年はめずらしく心が動かされそうになる。





大変だ、だから感情があるって嫌なんだ。






「殺すかもしれないだろ」

「やんねーって。それにお前、ここ何年か人間殺してねーだろ」

「・・・それは、」





もう私にかかわろうとする人間なんていなくなったから。

いや、違うか。




違う、違うんだ。






「お前は、人間に関わろうとしなかった。殺したくないからだ。
人間に関わってしまえば、いつしか自分は人間を殺す。だから関わるのをやめた。


そうじゃないのか。」






大丈夫、俺は味方だから。

友達でもなんでもねーよ、一緒に耶麻を倒す仲間になるだけ。
お前の力が必要なんだ。





そう言って、手を伸ばす。





ああ、ダメになる。






[赤く錆びた指]





寂びついた私に、似合わない笑顔。

血で染まった身体には重すぎる言葉。



血が固まって、動きやしない指。





もう、手遅れなんだよ。
ごめんね。

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