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□0019:真夏だけの蜜月
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革命選抜チーム。
そんなチームが結成されて、早3日。そろそろチームもまとまってきたころ。
革命選抜チームの監督に名乗りをあげたのは奇妙なもので、サッカーをしたことのないサッカーのこともわからない宇都宮名無しさんさんだった。
確か稲妻ジャパンの宇都宮虎丸の妹らしいけれど・・・。
「お兄ちゃんは関係ないから!ないったらない!!」
の、一点張り。
どうやら名無しさんさんのお兄さんは今、フィフスセクターの幹部らしい。
それが許せなくて革命選抜の噂を聞きサッカーが嫌いなくせに。
「どうしてサッカーが嫌いなのに監督なんか」
「・・・なんでだろうね」
サッカーに打ち込む彼が嫌いだった。だからかもしれない。
私を放っていつもサッカー。サッカー馬鹿。そんな兄がサッカーを裏切った。
それが一番許せなかったのかもしれない。
そう笑って、袋に買ったものを詰め始める。
確か、今彼女は二十歳。まだまだ若いのに監督なんかして大丈夫なんだろうか。
「サッカーに嫉妬してたのよ」
兄はずっとサッカーに打ち込んでいた。
私はそんなサッカーを。
にっこり笑った彼女はスーパーの袋を持ち上げる。俺が持ちますと言って袋をとりあげると別にいいのにと名無しさんさんが笑った。
「ありがとう、南沢くん」
「いえ、お邪魔させていただくんだし」
そう、この人のすごいところは革命選抜のメンバー全員を招いてのパーティを自宅で決行するところ。
16人だぞ16人。
ボール蹴ってみろよとからかわれるようなそんな威厳のない監督。
総介なんて名無しさんさんがグレるまでからかい続けたからな。
そんな監督が練習をぼけーと見た後に「あ、うちで親睦会しない?」と思いついたように笑ったのを思い出す。
私なんにもできないけど料理なら、と。
で、今にいたるわけで。
「16人もよく誘おうと思いましたね」
「まーね。私、サッカーのことよくわかんないでしょ?だからみんなに申し訳なくって」
「気にしなくていいのに」
監督失格だもん。まぁ、わかってたけどね!と開き直る。
みんなサッカー上手いからびっくりしちゃったと笑っていたけれどそりゃあ上手くなかったらおかしいだろ一応俺らは革命選抜。
「それにしても、よく革命選抜チームの監督になろうと思いましたね。お兄さんと対立するでしょ」
「もう喧嘩したよ。殴られた」
「え?!」
まさかお兄ちゃんが私を殴るなんて思わなかったけどねーと笑って。
「首をつっこむなって言われた。これは遊びじゃないって言われた。」
私は本気だって言ったら、バシンッて。
はじめて兄に、殴られた。
どうして殴られたのかは全然わかんなかった。
「でも、うれしかったの」
うれしかった?と聞くとうん、とつぶやくように。
俺の持っているスーパーの袋の持ち手を半分奪った。
「半分こしよ。」
ふふっと笑った名無しさんさん。
まだ幼いその笑顔に不意に胸がときめく。
ああ、この人はきっと兄が好きなだけで。
「お兄ちゃんが初めて私をちゃんと見てくれたような気がしたの」
妹なんてさわったこともないくせに、初めての接触は暴力。
おもしろい話でしょ?
「でも、お兄さんは名無しさんさんを守るために」
「知ってるー。わかってる。理解してるし、痛いくらい兄は私を愛してる。」
だからこそ。
だからこそ逆らおうって思っちゃった。
そう笑った彼女は大人なんかじゃなくて、幼い子供に見えた。
兄貴に認めてほしいだけなんだろう。サッカーで認めてもらおうだなんて思ってないだろうけれど。
名無しさんさんは意地でわかりもしないサッカーを理解しようとした。
「全部終わったら、兄に堂々と会いにいこうと思うの」
「終わった、ら?」
「革命が成功したら、だよ!」
私はね、後悔してないよ。だってからかわれるけど、超いじられるけど。
弟ができたみたいで。楽しいの。
同じ速さで歩く俺と名無しさんさん。
監督と選手だなんて何人が思うだろうか。
似てもいないのに、何人が姉弟だと思うのだろうか。
もしかしたら、恋人に。
「はははっ、南沢くんなんで顔赤いのー?」
「今日暑いじゃないですか!だからですよ!!」
「夏だからしょーがないんじゃない?」
「名無しさんさんは涼しい顔してますね」
「私、暑いの好きだもん」
今から夏がはじまるよ、と笑って一歩俺よりも前に出た。
くだらない話をするようになって。
名無しさんさんものんびり話をする。
歩きながら名無しさんさんの家に向かっているとふと名無しさんさんがつぶやいた。
「南沢くんってかっこいいけど彼女とかいないの?」
何気なしに聞いたんだろうけれど、俺は思わず袋の持ち手を離す。
おおっと?!と、急に重くなった袋に驚いた名無しさんさん、俺はすいませんといいながらまた片方の持ち手を持つ。
「その慌てようはいますねー?どんな子?」
「いませんよ!彼女なんて」
「嘘だー」
同学年で南沢くんみたいな子いたけど、超モテてたよ?実際どうなのよーと俺をからかう名無しさんさん。
普段からからかいっぱなしだからいつか反撃がくると思っていたけれどまさかこの状況で。
しかも、恋の話題でこの人にいじられるとは。
「言ってみなよー、ほれほれー」
この人急に生き生きしはじめた!
なに、女子特有の恋バナで盛り上がるタイプ?!
「・・・名無しさんさんはどうなんですか?!名無しさんさんかわいいし料理得意だし絶対彼氏いるでしょ」
「いません、募集中でーす。私は無実でーす」
「俺だって無実です!」
マジでいないの?!嘘だー!!と俺に近づく。
そしてじぃ、と俺の顔をのぞきこんでありえないと言ってむくれる。
ああ、この人かわいいな。どうしよう本当かわいい。
「普通女子は放っておかないよー?こんなイケメン」
「イケメンじゃないです」
「えっ南沢くんかっこいいよ?!」
なにいってんの?と言わんばかりの表情と、それと言動。
・・・この人に彼氏がいないなんて嘘だろ、こんなにかわいい人見たことないのに。
「本当に彼氏いないんですか?」
「いないよ。」
「嘘でしょ?」
いるならこうやって南沢くんと二人で同じ買い物袋なんて持って歩いてないってともっともなことを言う。
俺だって、買い物についてきてなんかない。
彼女なんていたら、この人の隣なんて歩いていないだろう。
「お互いフリーだったってわけねー」
「さみしいことに。というか俺はまだ中学生ですけどアンタはまずいと思うんですけど」
「うっ」
言うねぇ、と言ってひくっと口をひきつらせる。
どうせ二十歳になっても彼氏のいない悲しい女ですよ。そうそんなに悲しそうでもなく軽く言い切る。
どうやら本当に彼氏はいない、というかいらないらしい。
「それに、私にはみんながいるから」
その言葉に思わず足を止める。
「え?」
「だってそうじゃん。たぶん短い間だけどさ」
私、今幸せだもの!
そう笑った彼女の笑顔が焼きついた。
[真夏だけの蜜月]
期間限定の関係。
ダメ監督と、選抜選手。
いつか終わりがくるのなら。
「俺、名無しさんさんのこと好きですよ」
「ありがとう。」
いっそ。