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□0003:反抗的な女王蜂
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めんどくせぇなぁと教室で足を組んで、机に脚を乗せる。
するとヤメロと聞きなれた声が聞こえてきた。
そいつの顔も見ずにあーあ、と息を吐くとなんだその反応ムカつくなんて言われてバッと足を下におろす。
「人間、うまくは生きていけませんねぇ日向くん」
「そりゃあな名字さん。なんだ、耶麻になんか言われたのか」
「おーよ、そろそろこの変な役目やめたーいって言ったらやめさせないゾ☆って言われた」
「そっかそっかー、まぁいつものことだな」
私はこの楢鹿の生徒。
もちろん人間。
あんな化け物ではない。
ちなみにどうして耶麻と普通に会ってるのー?ふっしぎぃなんていう質問にはいつも答えるつもりはない。
「お前、殺されるぞ?」
「殺されないよ、私も面白い駒も一つだもん。
それに生徒の動向を監視する私がいなくなったらそれこそ意味がない」
私が死ぬのは、全滅したときだよーとへらへら笑って机に肘をつく。
私は、監視役だ。
様子のおかしい生徒のストッパー役でも慰め役でもなんでもない、監視者。
監視をして、少しでも普通じゃない動きをする者に近づき話を聞く。
そしてそれをすべて耶麻に報告する。
それだけの役目。
私は死ぬ心配がない。
どうしてかって、私は楢鹿の力で守られる重要人物。
監視役がいなくなったら本当につまらなくなるんだろう。
私は幼いころから人を楽しませる喋り方や、話の構成の仕方を教わってきた。
もちろん、すべては耶麻を楽しませるためだ。
神に一番近いと言われている私の家系の、一番最後の雄弁者。
もちろん一番最後といっても、弟が存在する。
しかし、私のような存在はもう現れないだろうと言われ続けてきた。
私も、そう思っている。
「名無しさんの話は、面白いからな」
「そうかぁ?これも全部ココのために身に着けた技術だよ?
いらないいらない」
私は、人一倍感性が豊かだった。
私は人一倍勤勉で、私は人一倍よく舌がまわる。
私は、私は。
「ま、死なないってだけでなんの得でもない。
普通にこんなところに来ないで生活してりゃあ死なないもん」
「そりゃそうだ。いいんじゃね?俺らが蝕から必死こいて逃げてる間に高みの見物してたら」
「見物、ねぇ?」
「女王みたいに脚組んで、嘲り笑ってればいい。」
お前は、特別なんだよ。
そう言われて頭が痛くなる。
何回その言葉を聞いたのか今じゃもうわからない。
けれど何十回も言われ続けたその言葉に、もう喜ぶなんてことはできない。
「ね、知ってる?女王蜂って繁殖のためだけに存在するんだよ」
「そりゃあ、働き蜂に生殖機能はないからな」
「それと一緒でしょ」
そう笑って日向の頬にむにー、と触れる。
するとやめろと強気な声と、かわいそうなものを見るような目。
そっちこそやめろ、私をかわいそうだと思うんじゃない。
「知ってるでしょ?
私、耶麻に仕えるためにわざわざ人間を卒業させられてんのよ」
私は、死なない。
私は、どうひどく惨殺されようが、死なない。
それはれっきとした人間卒業。
おめでとうなんて声はない。
ただただ気に入られた、それだけで。
私の体は。
「私にしか、耶麻の話相手は務まらない。
他の生徒の話になんか耳を傾けやしない」
それって、それって。
「女王蜂と働き蜂の関係に似てるわよね、だって働き蜂って全部が全部メスなんでしょう?」
働き蜂は生殖機能をもたない。
女王蜂は生殖機能をもっている。
一般生徒は耶麻と話す権利を持っていない。
私は、私は・・・。
「ああ、そうだな。で、お前、俺になんて言われたいの?」
「助けて」
「無理な相談だな。」
「・・・よねー。」
知ってたよ、知ってたの。
そう言って私は席から立ち上がる。
そして日向に手を振って、教室から出た。
向かう先は理事長室。
無理な相談、わかってる。
でも、それでも。
「失礼しまーす、耶麻理事長いますー?」
[反抗的な女王蜂]
女王蜂だって、ガキ作りたくないときだってあるじゃない。
少しくらい休憩してもいいんじゃない。
そう言ったら、笑われた。