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□0096:縁がないという縁
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人が多すぎる。





「あっ赤司っちいたッス!!見つけたッス!!」

「僕はもう帰r「赤ちーん、お守りこっちだってー」

「いやだから僕もう帰r「赤司くんと僕じゃ飲まれそうな人ごみですね死なないようにしないと」




最悪だ、噂には聞いていたがこんなことになろうとは。
というか、なんだこれ。
大晦日に暇人ばかりなのか!そうなのか!!





「ぼーっとしてるとはぐれっぞ」

「大丈夫なのだよ、俺にはラッキーアイテムがある!」




人でいっぱいいっぱいの神社には屋台まで並んでいる。
神社なんてどこにでもありそうなものだが、ここにいる女性はここでなくちゃいけない理由っていうものがあるんだろう。


僕も少し調べてみたが、大晦日に販売される恋守りはここの神社の娘である名無しさんとかいう巫女が一個一個手作りしているらしい。

しかも一日一個ずつ作るというものすごい仕事ぶりだ、感服する。

ただそれ故に販売されるのは限定364個。
今日だけは、お守りを作らずに巫女の仕事に全うするようだ。






「あれ」




明るい髪色のあいつらが見当たらない。
ついでに言うと、デカいから目印にしていた敦さえも見えない。


・・・やってしまったようだ。



最悪だ、本当に最悪な一年の最後である。
そう思いながら仕方なく人ごみから離れて人の少ない場所でテツヤに電話をかけてみるが出ない。

この調子じゃみんなでないな、涼太には悪いが僕はこのまま帰らせてもらおうか。


そう思っていたときだった。





「きゃっ・・・」





人ごみからぺっと吐き出されたように飛び出してきたのは、巫女服を着た少女。

幼い顔立ちに不釣り合いなはずの唇に塗った紅がとても映えている、確か写真でみた、





「いたー・・・うう・・・こんなんだからダメ巫女って言われちゃうんだよーぅ・・・」




人ごみから押し出され、そして盛大に転んだ彼女。
泣きそうになりながらも立ち上がろうとするが、なかなか立ち上がらない。

そして顔を蒼白にしてどうしようとつぶやいた。

放っておくわけにはいかないか。
どの道、この子にお守りを祓ってもらわなくてはならないらしいから。




声をかけることなく彼女に近づき、そっと手を伸ばす。
大きなくりんくりんの瞳が僕を捕える。


・・・か、かわいい・・・





「あ、ありがとうございます・・・っ・・・」




手をつかみ、立ち上がろうとするにも苦痛に顔をゆがめる。
足をひねったのかと思いつつ僕は口を開いた。





「どっちの足が痛いんだ?まったく・・・ここの参拝者は巫女さえ突き飛ばすのか・・・」

「左です・・・あ、本当・・・大丈夫ですから。お手を煩わせるわけには」

「君はこれから忙しいんだろう?応急処置だけでも・・・足袋を脱いでくれないか?」




はい、と小さくつぶやいて彼女は足袋をするりと脱ぐ。
一見しただけでも明らかな足首の腫れ、位置からみて捻挫か靭帯、か。

捻挫だと厄介だな内出血までしている。複雑にひねっていればいるほど治りは遅い。





「えっと・・・」

「急いで冷やした方がいい。こんなんじゃ歩けないな・・・」

「あの!わ、私名無しさんっていうんですけど・・・あなたは?」

「赤司だよ。」

「赤司さん、ですか・・・。私は平気なので、お気になさらず参拝していってください。
本当にありがとうございました」




ぺこり、と頭を下げて足袋を履こうとする。
けれど足の腫れも酷いので激痛に顔をゆがめながら無理やり足袋を履こうとするのがいっそ哀れだった。





「・・・まだ幼いのに、どうしてそんなに家の手伝いに必死になるんだい?」





思わず口を開いた。
途中まで進んでいた足袋が足の甲の途中でぴたりと止まった。

驚いた顔をした彼女はまっすぐ僕を見て、満面の笑みを見せたのだ。





「好きなんです。人が幸せになってくれるのがとっても!
がんばるって言いながら恋守りを買ってくれるのも、付き合えたよって報告してくれる笑顔も。
だから私もがんばれるんですよ。

それに、私幼顔ですがもう中学生ですし」

「え」

「あっやっぱり小学生だと思ってましたよね?小学生にしか見えないってよく言われるんですよ。
中学2年生なのですがやっぱり見えませんか?」






全然見えない。

幼い顔は丸みを帯びていて目は大きいし、にへっと笑う顔は幼子そのものだ。
それに身長はそんなに高い方じゃないだろう・・・ああ、胸は大きいか。
大輝が食いついてそうだな・・・





「同い年なんて思いもしなかった。すまないな、子ども扱いして」

「えっ同い年?!嘘?!」

「ああ、僕も中学2年生だよ」

「そんなに身長高くて大人っぽいのに?!いいなぁ・・・」





にへら、と笑った彼女・・・名無しさんさん。
どうやら僕は年上だと思われていたらしい。

どうするんだろう、敦を見たら身長高いとかいうレベルじゃないとかいいだしそうだな。





「スポーツかなにかやってるんですか?手がすごく逞しかったんですけど」

「バスケをちょっとね」

「へぇ、バスケですか・・・って、あああああああ!!!」





何かを思いだしたように名無しさんさんはガバッ立ち上がろうとする。
だが足を怪我しているのを忘れていたらしく、すぐに転び、顔を蒼白にしてどうしようとつぶやいた。





「どうしたんだい?」

「今日、ちょっとバスケ部の選手さんたちが部活縁結び守りを買いに来てくれるんですけどもう時間が・・・」






泣きそうになりながら名無しさんさんは諦めたようにため息。
足を捻ったのは初めてなんだろう、痛みについていけていないようだ。





「名無しさんさん、我慢してね」




僕はなにを思ったか名無しさんさんを姫だっこして持ち上げる。
軽すぎる、人間じゃないと思っていると顔を真っ赤にして言葉にならない声をあげている名無しさんさん。

てか顔近いな、初めてこんなことをした。






「あっ赤司さん!あのっ・・・歩けます、歩けますから!」

「立てれないのに歩けるとは不思議なことを言うね。大丈夫だよ、落としたりしないから」

「そーいうことではなく!そーいうことではなくですね!」





反応が面白いな、と思いながら僕は人ごみに入らずどうしようかと立ち尽くす。
そうだ、僕も人ごみにやられた人間だった。





「名無しさんさん、人ごみを回避してお守り売り場まで行くことはできないのかい?」

「で、でも・・・」

「いいよ、僕も友人とはぐれてしまってね。会うにはお守り売り場に行かなきゃいけないんだ」





まぁ、この子も僕もいないから慌てて探しているような気がするが。

冷静にそんなことを考えながらじっと彼女の顔を見る。
冗談ではないと悟ったのか、名無しさんさんは道を教えてくれた。





「こ、ここを真っ直ぐ進むと境内の真ん中に出るんです。真ん中に人が集中するので林を通って裏に行ければ・・・」

「わかった、行こうか」





軽すぎる名無しさんさんは恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
かわいい顔なのだから伏せなくていいのに。

少し歩いているときに気まずさが僕らを襲う。
そうだ、今日知り合ったばかりでなんだこの状況。
僕なにやってるんだろう。




「あ、赤司さん・・・」




状況に耐えかねた名無しさんさんが僕の名前を呼んだ。
同い年なのに物腰柔らかな人だ、敬語は癖かなにかかな。





「なに?」

「赤司さんは恋守りを買いにきたんですか?」





ぎゅっと僕の服をつかむ彼女。
なにこれかわいい





「違うよ」

「じ、じゃあ彼女さんときたんじゃ」

「違う。部活の友人さ」

「彼女さんは?」

「いないよ」

「嘘ぉ?!」






モテるんじゃないんですか、かっこいいですもん!と名無しさんが言う。
やめてくれ、なんだか恥ずかしくなってきた。

というか名無しさんさんこそ。





「名無しさんさんも彼氏がいるだろうに、ごめんね僕なんかが」

「彼氏いませんよ私」






嘘はいけないな、と笑うと本当ですよと笑っていた。
大きな目が細められて、それでも言葉を続ける。




「私、縁結びの神社の娘じゃないですか。だから恋なんかしちゃいけないんです。」

「・・・それは、悲しくないのかい?」

「いえいえ、わりきってますよ。私が失恋しちゃダメってだけですから」





ただ、告白されたとき断るのが申し訳なくってと冗談めいた言葉をつぶやく。
いい子だ・・・。

そうか、もし縁結びのお守りを相手が買っていたりしたら本当に気まずい空気になるだろう。

縁結ばれてないじゃないか、なんて話にもなる。





「恋をしてる子をみたらいいなぁ楽しそうだなぁって思うんです。
だから私は恋をしない。できない。それでいいかなぁって。」





ふふっと笑う。
ただふと目があってまた名無しさんさんは僕から目をそらした。

・・・ああ、この子は。





「もったいないな。君みたいなかわいい子が失恋ができないって理由で」

「かわいくないですよ。」




かわいくないです、と自分を卑下する。
素直にかわいいと思ったのに彼女は自分を否定する。






「本当にかわいいのは、恋をしてキラキラしてる女の子ですから」





輝いていて、手を伸ばしても届かない。
そんな女の子たちを支えるのが私の生きがい。





「あっ、もちろん仲直りのお手伝いも部活の仲間さんとなかよしになるお手伝いもしてますよ?!
縁結びの神社の巫女ですから!」





くるくる表情が変わる。
涼太のような表現力に、テツヤのようなしっかりした意見。

縁結びの神社か。


・・・ああ、もっていかれそうだ。







「でもダメ巫女なんですよね。舞は下手だしドジだし今だって赤司さんに迷惑かけてますし」






真っ直ぐ歩いていると人ごみが見えてきた。
巻き込まれるのは嫌なので回避してすぐに林に入ると、もうすぐ年が明けますねと声がした。





「急いだほうがいいかい?」

「いえ、恋守りの販売はバイトさんに任せてますし・・・私は夜明けに舞を」





はっとしたように名無しさんさんは身を固まらせる。

そしてあうあうと僕に尋ねた。






「夜明けまでにっ・・・足治りますか?!」

「無理だろう。というか全治2ヶ月くらいじゃ」

「あああ・・・一番忙しいときに私ってば・・・!」






はうっお祓いのお仕事もあるのにとまたくるくる表情を変える。

泣きそうだ、と思った。
責任感が強いんだなきっと。






「いいよ、お祓いは適当で」

「いえ、なんか雑誌に載るみたいですし責任重大ですし黄瀬くんに申し訳ないですし・・・」

「大丈夫。僕が本当にしてみせるから。」

「・・・へ?」






僕が、必ず来年も帝光を日本一に導くよ。
大丈夫さ任せてくれればいい。



そう伝えると吃驚した目をくりんくりん動かして、ついでに起動していない思考で思いついた言葉を口にした。






「あの・・・まさか、赤司征十郎さん、ですか・・・?」

「そうだよ。帝光バスケ部の主将」

「あっえっじゃあ今黄瀬くんたち探してるんじゃっ・・・って私がいないと部活守りお祓いできなくて・・・えっ?」

「ははっ、落ち着け」






ちょうど神社の裏についたらしい。
ざわめきから少し遠い気がするが、まぁ正解なんだろう。



名無しさんさんがここで下ろしてくださいと言うから名残惜しくも座れそうな石の上に下ろす。




「赤司さんって私の怪我の応急処置くらいできますか?」

「ああ、できるけど・・・どうして?」

「赤司さん、今は年末年始ですよ・・・」

「本当に悪いタイミングで怪我をしたね。どこの外科も休みじゃないか」





僕の返事を聞いて満足そうに頷いて、良かったとつぶやいた。
そのまま巫女服に不釣り合いなケータイを取り出して名無しさんさんは電話をかけはじめる。






「あ、お父さん?私なんだけど・・・うん、あのね様子見にいったら足捻っちゃって・・・大丈夫踊れるよ!
あ、帝光中学の・・・えっ、もう来てる?!わかった、今からそっち行くねうん」




会話から不安しか感じられない。
待て、踊れるって。




どうしてそんな申し訳なさそうに僕を見る?
どうして、応急処置を僕にお願いする?
どうして立てることもできないのに。
どうしてそんなに必死に。





「私しか、舞踊れないの」

「ダメだよ」

「やらなきゃいけないの」

「ダメだ!」





思わず叱るようにたたきつける。
それでも、彼女は。






「私には、巫女しかないの」





ダメ巫女と罵られながら。

毎日馬鹿みたいにお守りを作りながら。

毎日他人の幸せを祈りながら。


それでいて、優雅。

それでいて。


それでいて?






「赤司さん、」

「・・・舞は一度きり、終わったらすぐに冷やす。負担はかけない。僕にメアドを教える。
条件がのめないなら、応急処置はできないな。」





ぱぁあ、と表情を明らかに明るくさせた名無しさんさん。
メアドのくだりにツッコミがほしい気分だ、正直かなり恥ずかしい。





「ケー番も教えちゃう!」






ああ、なんて綺麗な笑顔なんだろう?
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