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□0098:貶されても汚れるな
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待ち合わせは午前10時、駅前。

今日を休みにすると言ったときのみんなの驚いた顔が忘れられないが知るか。

それにしても日曜日なんて、巫女のほうが忙しいんじゃないかとかいろんなことを考えたが暇ですと返事が返ってきたのでもうどうでもいい。



それよりちょっと僕大丈夫かな、私服とか選んでたら女子か!ってツッコミ自分でいれるくらい気合入れてきたんだけど大丈夫か。

いやそれより名無しさんの私服が予測不可能だ。
巫女服と制服姿しか見たことがない。

あれ、マニアックだななんか。





「赤司さん?」





急に声が聞こえてきてびくっと体を跳ねさせてしまった。

声がした方をみるとそこには今日待ち合わせした人がいて。




と、いうか。






「わー、私服かっこいいですね。赤司さんなに着ても似合うから羨ましいです」





短すぎないフリルスカート。
高すぎないパンプス。
華美ではない化粧。
さりげないアクセサリー。
そしてなによりこの笑顔。



完璧です、僕のタイプストライクです本当にありがとうございました。





「名無しさんもかわいいよ。私服なんて初めてみた」

「そうですね、よく会いに来てくださるのに。
私、あんまり私服って好きじゃなくって」





苦手なんですよ、似合わないしと笑う名無しさん。

なにを言っているんだか超かわいい。
そんな言葉が出るはずもなくとりあえず行こうかと街に歩き出した。


本当は遠出でもよかったのだけれど名無しさんがほしいカチューシャがあるらしい。
カチューシャとかお前かわいすぎるだろなんて言葉も押し殺した。






「あ、初めに断りをいれなくてはならないんですけど・・・」

「どうしたんだい?」

「私、結構文句とか言われちゃうんですよ。ほら、恋失敗した系の」

「そうなのか?名無しさんのせいじゃないのに」

「ふふ、言われちゃうんです。だから言われ始めたら笑顔で素通りするんです。
その時はどうか私のわがままに付き合って下さい」






彼女の言っている意味がわからなかった。

わがまま?

なにも言わず、返さず、一緒に文句を素通りすることが我が儘?




上等だ。






「そんなわがままだったら、いくらでも付き合うよ」

「言ってくれると思っていました」






ふふっと笑って行きましょうかと足取り軽やかに名無しさんはスカートを揺らしながら歩いていく。


その隣に僕がいる。




夢のようだ、と思いつつ彼女の談笑に耳を傾け僕も相槌を、返事を返す。




これってデートみたいだ。

デートみたいだ。




・・・あれ。





「赤司さん!このお店入りたいです!!」

「ああ、入ろうか」






デートじゃね?






「わー、この小物かわいい!」

「本当だ。名無しさんによく似合うよ」

「でも私の部屋和室なので洋物置けないんですよ。和小物も好きなんですけどちょっとだけこーいうのほしいです」

「和室なんだ、僕と一緒だね。
ただ僕は洋物も置いてるよ、ボールがあるくらいだし」

「あ、そうですね!じゃあ私も買っちゃおうかなー」





ちょっとレジ行ってきますね、と笑う名無しさん。

やはりその振る舞いは少しだけ大人しいように見える。
同い年なのに落ち着いていて、幼顔なのに大人っぽい。



そういえば名無しさんは進路はどうするんだろう。
女子高かな。
だと嬉しい。

共学だと複雑すぎて吐きそうだ。
どうせあのかわいい小動物モテるんだろう?
知ってるさ。




「買ってきました!すいません、こんな女の子がはいる店に放置してしまって」

「いや、いいよ。次行こうか」





小さなバックにさっきの小物を入れて名無しさんがお父さんに叱られちゃうかななんて笑う。

名無しさんのお父さんは厳しい人だと話を聞いた限りで知っていた。


僕が毎日のように会いにくるのもよく思っていないらしい。
いや、それはただの娘が大切なだけの親心だろうけど。




店を出ると、春らしい陽気に包まれる。






「・・・赤司っちと、名無しさんっち・・・?」

「あ、黄瀬くんっ!!お久しぶりです!!」





最悪である。

中学生のくせにサングラスをかけた涼太が僕たちを見るなり唖然とする。

当たり前だ、急に無理やり部活を休みにした主将が女の子と買い物。



驚くわ。
僕でも驚くわ。
バスケしろって言うわ。
バスケしろよ僕。





「えっと、デート中ッスか?」

「そうなんですーデート中なんです!」

「そーッスか!付き合い始めたんスか?」

「付き合ってはないですよ。」

「でもデートって」

「デートですよ?」





そうそう、今はデート中・・・



ってやっぱりこれデートでしたか!!!




今更恥ずかしくなってきた僕に気づいた涼太。
そうかこれデートか。
そうか、そうか。






「名無しさんっちかわいいッスねー!お二人お似合いッスよ!」

「本当ですか?うれしいですー」

「もう付き合っちゃえばいいんじゃないスか?!マジで!!」





やめろよ涼太それ以上言うとメニュー増やすぞ。





「でも赤司さん、好きな人いるらしいので。」





にっこり笑ってそう言う名無しさん。
そうですね、僕の好きな人は君なんですけどね。
いつになったら僕に告白させてくれるんですか?



名無しさんの言葉を聞いて目を大きく見開いた涼太。
そして僕の腕をつかんで名無しさんから大きく離れる。

そして肩に手を置いて僕に言った。






「なんでそんな勘違いされちゃってんスか」

「言えるかい?縁結びの神社の娘だから恋はしないんですって無邪気に笑う彼女に好きだと言えるかい?」

「・・・言えないッス!」

「だろう?!」




こんな意味のわからない状況に陥ってみろ馬鹿!!と涼太に浴びせる。
涼太は苦笑いを隠しきれていない。

当たり前だ、自分の部を休みにするほどに惚れこんでいる女にこんな扱いを受けているのだ。


いっそ哀れだろう、憐れんでもいいんだぞ!!
ただしメニューは5倍な!!






「でもいい感じッスよ?本当に。いっそ告って好きにさせちゃえばいいじゃないッスか」

「ダメだ、名無しさんは片思いに夢を抱いている面がある。
そんな告白して意識させるなんて卑怯な手彼女には使えない・・・!」

「律儀ッスね!!なんか感動したッス!!」






がんばってくださいッス!!
応援してるッス!!

と、渾身の声援を受けて僕は名無しさんのもとへ戻る。

ナンパされていたが名無しさんはうまくあしらっていた。






「僕の連れになにか用ですか?」

「あ?あー・・・さっすが縁結びの巫女ちゃん男は常に侍らせてるって?」

「貴様ッ・・・」

「そうかもしれませんね?」





ふふっと笑って行こう赤司さんと僕の手を握る。




手を握る・・・?




わけのわからない状況にテンパっているとすいませんと苦笑いが返ってきた。

手に伝わるのはとても冷たい氷のような感触。






「私、駄目なんですよ一人でいるといつもああやって声をかけられるんです」

「厄介なナンパだね」

「はい。こうやって出会えたのも縁だろ巫女様とか言ってくるんです。」

「それさっきの男の真似?」

「はい、似てました?」

「似てた」





思わず笑うと名無しさんが目を見開く。
そして握っている手にまた力を込めて僕と向き合った。






「やっと笑ってくれました!!」

「へ?」

「赤司さん、今日会ってから一回も笑ってくれないんですもん!!」





うれしいと笑う。

こんな僕に笑ってくれる。




違うんだ、楽しくなかったわけじゃない。

二人で買い物なんて初めてだから。

デートだなんて言われてしまうから。

君が、好きすぎるから。



だから、僕は。






「私、赤司さんの笑ってる顔好きなんです。だから笑っててほしいです」





今君に伝えたいことがあるんだよ。






「名無しさん、僕、」





好きだって。



好きだって伝えたい。



そしたらきっと君はごめんなさいって笑うんだろう。




もしかしたらもう二度とこんな風に笑いあえないかもしれない。

でも、僕が君に会いにいくことはできるから。





「僕は、君が」





手を握り返して、想いを伝えようとする。

その瞬間だった。






「あれ、あれって縁結びの」

「あ、本当だ」

「私、あの神社きらーい」





不意に聞こえてきたのは名無しさんを貶す言葉。

名無しさんは僕から吃驚した顔をそらして、逃げましょうかと不敵に笑った。





嫌い、叶わない、嫌味だ。
フられた、他の人が好きだった、結ばれなかった。


縁結びの神社の巫女だろ、どうにかしてくれよ。





そんな言葉が飛び交う、名無しさんは走りながら笑っていた。






「神さまはずっと見ていてくれます」





走りながら、僕に引っ張られる形になりながら、名無しさんが言う。






「神さまは私を愛してくれています」





顔は見えないが、声色はやさしい。



きっと微笑んでいるんだろう。







「こんなこと言っちゃいけないんですけど。
ああ、今すぐに階段から落ちちゃえばいいのにって。」






微笑んでいる、今確信した。






「思っちゃうんです、引きました?」






ぴたりと足を止める。

ここは人通りの少ない公園で、今は昼時なので誰もいない。


手を離すとそうですよねと笑う名無しさん。

違うんだ、違う。






「君は正しいよ。願うだけだ、君は綺麗だ」

「・・・ふふっ、言ってくれると思っていました」





信じていました。


そうつぶやく声のトーンは走ったためか低い。


体力のない彼女のために近い公園に駆け込んだんだがそれでも彼女にはキツかったか。






「私、綺麗でいようと思ったんです」







[貶されても汚れるな]







「母がそうであったように。私は笑っていようって。」

「・・・名無しさんは十分綺麗だよ」

「ありがとうございます赤司さん」

「あのさ、名無しさん」

「なんですか?」

「・・・なんでもない」





お昼を食べにいこうか。

そう言うと名無しさんは和食派ですか洋食派ですかと真顔でそんなことを聞くものだからまた笑った。



名前で呼んでくれないかな?なんて願望を押し付けることはできなかった。

ましてや想いを押し付けることもできなかった。



僕は彼女が大切すぎるのだ。



それと同時に苦しいのは。





「和食派かなぁ・・・」

「私もです!!というか赤司さんってもしかして和趣味じゃないですか?」

「言ってなかったっけ」

「聞いてませんよ。」





無邪気に笑う彼女は、恋を知らないということだ。
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