81〜120
□0099:こたえることはない
2ページ/2ページ
テスト期間。
その間部活はなく、まぁ、やりたい人はご自由にみたいな期間。
僕はあまり勉強などしないけれど、涼太や大輝、敦は赤点を回避するために必死にノートをかき集めていた。
授業中なにをしていたんだと聞くと寝ていただの仕事だっただのお菓子食べてただの。
自由人か、名無しさんを見習え。
名無しさんなんてふらっふらで学校に向かっていたんだぞ心配だ。
「赤司くん帰るんですか?」
「ああ、今日は帰る」
僕もテストがある。
教科書くらい捲っておくのが礼儀ってやつだろうと思いつつ鞄を持ち、そして体育館を出た。
名無しさんが倒れていないか心配だったが名無しさんなら大丈夫かと校門をくぐった時。
「テスト終わったぜうえーい!!!!」
「ちょっと名無しさんテンションあがりすうえーい!!!」
「お前も上がりすぎだから!!これ以上テンションあげたらなにもかも失うえーい!!!!」
「もうこのままパーティしよう?!3人が生きてることなんて奇跡!そうこれは奇跡なんですよ!!」
「神のご加護!!マジで!!ご加護!!」
「あっ・・・ちょ、名無しさんさん名無しさんさん・・・」
「なんですか徹夜した私に今怖いものなんてテストの結果くらいですy・・・」
今まで見たことのないくらいテンションがマックスな名無しさんがいた。
名無しさんと目が合った瞬間とんでもなく気まずい空気が漂う。
名無しさんの友人であろう2人はやってしまったなと名無しさんの肩を叩いていたがそれどころじゃないと言わんばかりに名無しさんの顔は蒼白になっていた。
「・・・えっと、」
「・・・どこから、見てました・・・?」
「テスト終わったぜうえーい!!から、かな・・・」
「あ、ちょっとあっちに首つれそうな木があるので「行かないでください!!」
そうツッコミを入れた途端に名無しさんは二人の友人に泣きついた。
その友人たちは苦い顔で僕に会釈をしてこう言い訳を言いだす。
「この子、徹夜するといつもこうなんです・・・」
「それと同時にテストが終わったという喜びで壊れてたっていうか・・・」
「わかった、ありがとう・・・」
ほら名無しさん、と友人だろう二人は僕に名無しさんを突き出す。
僕が首をかしげていると友人が口を開いた。
「今酔っ払い並にうざったいですがよかったら送ってやってくれませんか?」
「ああ、わかったよ。責任を持って」
「えええっ?!パーティは?!」
「本当テンションおかしいわねアンタ!!ほら赤司さんに送ってもらいなさいって!!」
「あ、駄目眠い・・・」
「ここで寝るな!!!」
ふらぁ、と倒れそうになるのを思わず支えると友人たちから歓声が上がる。
・・・女子中学生のテンションってこんなに高かったか。
「名無しさんをよろしくお願いします」
「ああ、わかったよ」
なぜか二人はハイタッチをしてごゆっくりと走り去ってしまった。
テストが終わったからってあんなにテンションが上がるものなのか。
そう思いつつ本当に眠そうな名無しさんが腕の中にいるのを思い出す。
駄目だ、はやく家に届けて寝かせよう。
「赤司さん、私、テストがんばったんです・・・」
「そうだろうね。歩けるかい?」
「・・・キスしてください」
「・・・はい?!!!?!」
酔っ払い並にタチが悪い。
名無しさんの友人の言葉を思い出して頭を抱える。
眠たそうにうるんだ瞳。
ぎゅっと僕の制服をつかむ名無しさん。
・・・ダメだ、落ち着け僕。
相手は深夜テンションなんだ。
手を出してみろ、最低だ。
僕は自分の荷物を名無しさんに持たせる。
今日は荷物は軽いはず、と思いつつ無理やり持たせて腕を放す。
そして力任せに名無しさんをおんぶした。
「・・・キスしてくれないんですか?」
「しません!!名無しさん本当に深夜テンションお疲れ様です」
久々に軽すぎる体重を感じる。
というか、あの時は巫女服だったから問題視してなかったんだけど。
「んー・・・」
耳が。
「赤司さん、すいません迷惑かけてます・・・」
というか、スカートだから太ももが。
おんぶだから無駄に発育した胸が。
「いいよ、名無しさんはがんばりすぎなんだ」
「そんなことないです・・・そんなこと。」
耳元でしゃべらないでくれなんて言えるわけなく、耳に熱を持ったまま僕は歩き出す。
せめてもの救いは神社が近いことか。
ああ、噂の的。
これ以上彼女との噂が増えたりしたら本当に苦しくなる。
「ねぇ、赤司さん。」
「なんだい?」
「赤司さんは、高校、どこにいくんですか?」
ずっと聞こうと思っていた問題。
僕はバスケがしたいからなんて単純な理由で洛山に行こうとしている。
あそこは有望な選手が集まる、僕もきっと楽しくバスケができるだろう。
「・・・名無しさんは?」
「なんとなくしか決めれてません」
みんなバラバラになっちゃうんです、と泣きそうな声。
ああ、名無しさんも洛山に来ればいいのに。
そうすれば、きっと僕らは楽しく学校生活とやらを過ごせるんだろう。
マネージャーになってくれたりしたら最高だ。
「赤司さんは・・・?」
「僕は洛山かな。バスケで決めたが偏差値も低くない」
「っ・・・京都ですよね」
最悪だ、と言わんばかりの声。
覚悟していたと言わんばかりの声。
あ、そうだ、洛山って京都だった。忘れてた。
え、ちょっと、待って。
「私・・・誠凛にいこうと思ってます。」
どうあがいても絶望というか、なんていうか。
誠凛ってこの付近の高校で。
共学で。
「・・・そうか」
「そうなんです・・・」
最悪だ。
「赤司さん、私ね、」
名無しさんが僕の背中でなんでもないようにつぶやいた。
「赤司さんのこと、好きです」
[こたえることはない]
付き合えたらいいと思っていた。
きっと楽しいと。
両想いだったら最高だなんて。
でも彼女は恋を知らなかったはずだった。
壊れた。
きっとこれは、壊れた。
そもそも壊れるほどの絆の中で僕らはいたのだろうか。
こたえられるわけがない。
あと半年で僕らは、どうあがいても。
「っすいません!!忘れてください!!」
背中で急に暴れ出す名無しさん。
下ろしてもらえませんかと言われ大人しく名無しさんを下ろすと顔を真っ赤にして泣いている名無しさんがいた。
「本当に、すいません」
頭を下げて、まるでもう会わないと言わんばかりに。
大きな瞳に涙を目いっぱい溜めて。
「さようなら」
彼女は、きらきら輝いていたんだろうか。