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□0100:街がオレンジ色に染まったら一緒に帰ろう
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問題はもっとある。
確かに離れることも問題だが、それよりも問題なのが名無しさんを逃がしてしまったことだ。
あと、絶望しきった顔。

名無しさんはわかっていたはずだ。僕に好きな人がいることを。
告白なんて無意味なことはしないはずだ。

僕の想い人が名無しさんだ、ということを知らずに彼女は逃げてしまった。



なにも言えなかった。
呆然と悄然と動転と動揺と焦りに加わって思考が停止した脳内、うるさく脈打つ心臓。


なにもかもが重なって、名無しさんを逃がしてしまった。


縁結びの巫女なのになんという失態、と彼女は泣いているのだろうか。


もう二度と会わないなんて思っているのだろうか。


それでもまだ、僕の恋を応援してくれているんだろうかー・・・



こんなことになるなら、とっとと告白してしまえばよかった。


両想いだなんて思えなかったものだから、名無しさんは恋なんてしてないと思っていたものだから。





「赤司くーん・・・?」

「思ったより重症なのだよ」

「当たり前だろ、名無しさんは勘違いしたまんまなんだから」

「しかも寝惚けてたらしーしねー。名無しさんちんも後悔してると思うー」

「っ・・・俺!!名無しさんっちに電話してくるッス!!」




会話は聞こえてくる。
ただ、口が開かない、体が重い。


バスケしろなんて言葉も出てこない。





「涼太やめろ」





出てくる言葉はやはり名無しさんの事ばかり。






「なんでッスか赤司っち!!」

「・・・名無しさんが、また泣くだろう」





それだけは嫌なんだと当たり前のように吐いて立ち上がる。
頭を冷やしてくるとみんなに告げて僕は体育館から出た。




空が青いなちくしょうめ。


なんでそんなに青いんだよ、お前は大輝かいや大輝こんなにさわやかじゃないわ。


動いてくれない思考を必死に動かしてこれからどうするかを決めよう。






「赤司くん!」




不意に声がして、振り向くとそこには桃井がいた。
桃井は不服そうな瞳を僕に向けてくる。


・・・なんだ、桃井までそんな目で僕を見るのか。





「どうしたんだ、そんな顔をして」

「名無しさんちゃんのところに行ってあげてよ!」

「は?」

「好きなんでしょ?!」





意味のわからない言葉。
好きに決まってる。

好きだけれど、伝えてはいけない。

そう思った。



どうせ僕は洛山を諦めることはできない。






「名無しさんちゃんね、笑ってた!!」





桃井はなにも言わない僕を見据えたまま叫んだ。





「文句ひとつ言わずに私の恋愛相談を聞いてくれた!いっつも味方になってくれた!
恋の話をしたらすっごく嬉しそうに笑うの!!
きらきらしてて、綺麗だって笑うの、」





どうしてお前が泣きそうになってるんだよ、






「でも、名無しさんちゃんから一回もそんな話きいたことない!!!」





感情的になっている桃井はつらつらと言葉で僕をえぐってくる。






「誰にも相談できないなんておかしいよ、誰も気づいてあげられなかったなんておかしいよ!」





そんなの、名無しさんちゃんがしたかった片思いじゃない!!





そう叫ばれて。






「桃井、ありがとう」





彼女に礼を言って僕は走り出した。

名無しさんのために何度走ったんだろう。
バレンタインの時、泣かせてしまった。
買い物の時だって名無しさんを守る為に走ったような気がする。

運動が苦手な彼女に何度走らせてしまったんだろう。


そういえば、出会いは本当に唐突だった。
大晦日に嫌々行った神社の人ごみから吐き出された彼女は怪我をしていた。

それを見ていた僕はどうしても見捨てることはできなくて。



僕のもとじゃなくてよかったんだ。


僕がいた反対側に彼女が吐き出されたって、あんな境内から遠い場所じゃなくたって、どこでだってよかったんだ。

彼女が怪我をするという、偶然と僕に出会うという運命。



それはきっと。






「名無しさん!!どうしたんだお前最近おかしいぞ!!」

「わかってるよお父さん!!掃除してきますよ!!してくりゃいいんでしょ!!」





縁結びの神様の、ちょっとした悪戯。






「うううー・・・鬱だなぁ・・・テスト終わったのになにこの虚無感・・・。
そもそも真夜中テンションがいけなかったのよそうよなにもかもテストが悪いのよ・・・」





彼女は、キラキラ輝いていたんだろうか。






「・・・名無しさん。」





ぶつぶつと文句を言いながら境内を掃除している名無しさんに声をかける。

びくりと大袈裟に跳ね上がる身体、振り返りもせずに逃げようとする彼女。

彼女が走り出してしまう前に僕は思わず彼女の腕を掴んでいた。






「・・・お久しぶりです、赤司さん」

「そうだね、いつぶりだろう」

「なにしにきたんですか?あ、やっと恋の相談をしてくれるんですか?
やったー、私、赤司さんの恋バナ興味あったんですよ誰なんです?何中の何年何組何番さん?」





僕の顔を見ずに焦って、泣きそうな声を振り絞って、彼女は僕に聞く。
キラキラしてますね、素敵ですと僕を見ずにそう言うのだ。





「・・・君もキラキラしていたよ」

「っ・・・気休めはよしてください!!」

「僕の恋の話をしようか」




腕を離すけれど名無しさんは逃げない。
どこまで真面目なんだろう。

足を怪我しているのに、舞を踊った。
その時の舞はとても美しかった、怪我をしているだなんて思えなかった。

バレンタインの前日も学校を休んでまで世の中の女性のために身を粉にして働いた。

どんな文句も聞き流すと笑っていた。



だから、僕の恋の話も受け止めようとしている。



だったら、聞いてほしい話ばかりだ。





「僕の想い人は、とても優しい人だ。
幼顔だが立ち振る舞いは大人そのもので何度も胸を弾ませられた。
器用で、真面目で、自分に与えられた仕事はどんなことがあっても成し遂げようとする少し不安な面もある。
今思えば天然なのかな、僕の言葉をいつも違う意味でとらえられていたような気がする。
けれどそこもかわいいんだ」

「・・・素敵な、女性ですね」




そう、君は。





「そうだよ、君は素敵な女性だ」




やっと振り返った名無しさんは目を大きく見開いていた。
腫れた瞳で何度涙を流したんだろう、僕なんかのために、ごめん。





「君はいつも輝いていた。そう思うよ。」

「赤司さ・・・」





そっと名無しさんの顔を両手でつかむ。
腫れた目を見て可愛い顔が台無しだと笑うとまだ泣きたりていなかったのか涙が溢れてきた。


ああ、綺麗だ。





「僕は、出会った時から。あの日から、君が好きだ。」





私もですとぼろぼろ泣く彼女。
そんな彼女をそっと抱きしめて、ごめんとつぶやく。




そしていいんですと笑った彼女にキスをした。
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