NOVAL

□stairs
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くだらない時間だったなぁ、と透はぼんやりと目暮警部の後に続きながら、鈍い思考で考えていた。
自信満々で警察に真昼間の渋谷での大量殺人予告を叩きつけられた、と聞いた時には探偵の性が反応して、プライドをかけて阻止してやる、とこちらも自信満々で、警視庁捜査一課の面々と殺人予告阻止に乗り出したのだが、思考をハイにして挑んだのにふたを開けてみればあっさりと自滅して、手掛かりをこれでもかと落としていた犯人は、たった数時間で解決してしまい、透が出るまでもない事件だった為、心底がっくり来ていた。別に手応えもない事件だったと嘆いているわけではない。付き合わされた時間が惜しかったと嘆いているわけではない。本来ならその時間は愛美とゆっくり食事をしている筈だったのに、今こうして警察の面々と、帰路に着いている自分が悲しい。

「工藤君、どうする? 食事でもしていくかね?強行犯係全員が勧める美味しい店が在るんだが」
何時もだったら、"面白い事件の話でも聞けるかも”と乗り気で、ご厚意に甘えるのだが今日ばかりは気が進まなかった。
「いえ、今日は帰ります」
今はもう、愛しい愛しい彼女の元に帰るしか頭に無かった。


事件を選んだ透に、愛美は少し不満げだった。透がわざわざ予約入れて蘭を誘った美味しいと評判のフレンチレストラン。なんと事件の舞台はそこだったのだ。血生臭い現場に愛美を連れていけないから、二人を楽しい夕食の一時はご破算になったものの、透はその時は容疑者の一人だった犯人に、指定されてそのレストランに正装して出掛けて行ったのだから。事件と分かっていても愛美としては面白くなかったのに違いない。
結局は自信たっぷりに余裕を見せて透ほか警察関係者に自慢の料理を振舞おうとした犯人は、機嫌の悪い透の容赦無い追及に崖っぷちまで。追い詰められ自ら堕ちて行った。胸ポケットから携帯を取り出して着信メールが無い事にがっかりする。事件が解決した直後、愛美に別の場所で夕食をどうかとメールしたのだが、見ていないのかはまた拗ねているのか、愛美からの返信メールは来ていなかった。
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