NOVAL

□spy
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愛美と付き合い始めて、三週間がたとうとしていた。四月もそろそろ終わり、暖かい春の日差しが俺達を見守っていてくれた、この三週間。まさか、こんな事があろうとは思っていなかった。

五月に入ると、俺は自動車学校に通う事になっている。今まで毎日愛美と電車とバスで下校していたが、自動車学校に通い出すと、そうはいかない。学校の近くまで教習所の送迎バスが来る事になっていて、俺達は暫く一緒に下校できなくなるのだ。

今日も天気のいい、ぽかぽかとした小春日和。桜も散り、緑の葉が顔を出した並木道。喫茶店の花壇に咲く色とりどりの花、そんな道を今日も愛美と二人で歩く。右手には愛美の小さな手。そして隣にはにこにことお喋りする、俺の最愛の人。の、筈なのだが………

最近、愛美がよそよそしい。一緒に歩いていても、なんだか気難しい顔をして街の店のショウウィンドウばかり睨んで、俺の方を向いて、にこにこと話す事はない。
「愛美?」
たとえ俺が話しかけても
「うん…」
上の空。俺達の手は繋がっているのに、どうやら心は繋がっていないようだ。

半田邸――――――――――
今日の体育では元気に恰好良く、バスケをしていたしどこか具合悪いわけではなさそう。いったいなんなんだ?
「どうしたの?眉間にしわ寄せて、何か考えごと?」
よほど、難しい顔をしていたらしい。愛美が温かいコーヒーの入ったカップを差し出しながら、可愛い顔して行って来た。
「いや、何にも…」
愛美と知り合って十数年。付き合いだして三週間、いくら名探偵だと言われている俺でも。好きな女の心なんて推理できない。
「さっきから、ずーっと黙って考えごとしてたけど?」
「そうか?なんもねーよ?」
笑ってみせると、愛美は全く、悩みの内容を知らずに笑って
「なら、いいけど…あんまり事件に没頭するから、その顔が定着しちゃったんじゃない?」
「るせー。……来いよ」
自分の右隣り、三人掛けのソファをパふっと叩く。
「うん」
嬉しそうに自分のカップを持ったまま。俺の隣に座る。そして俺の右肩に頭を載せる。最近分かった事で、この肩に自分の頭を預ける行動の意味、甘えていると言う事を。もしくは俺に何らかのお願いが在る時。こんな行動を取るってことは、やっぱり俺の想い過ごしか?
「ねえ、透?」
「なんだ?」
可愛い声で、上目遣い。愛美可愛い態度にドキドキしているのがばれない様に、素っ気なく答える。
「ゴールデンウィークの時ね、トロピカルランドでオールナイトやるんだって。でね、午後九時以降に来たカップルは入場料が半額になるらしいの!」
にこにこと嬉しそうに話す。
「へえ」
釣られて、透は笑顔になる。こんな二人きりの時が永遠に続けばきっと、幸せなのに。
「ねえ、行かない?五月三日の夜に」
「ああ…そうだな、本格的に受験勉強始める前に…」
その時、チャララ…と愛美の携帯の着信メロディーが俺の言葉を遮った。誰だよ、こんなときに電話してくる奴は!
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