NOVAL

□oneside-love
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クーラーが必要なほど、暑くもないが、運動の一つ十分でもすれば汗だくになりそうな、初夏。風通しにと開けた庭へと続くガラス窓から涼風が入り込み、カーテンと、己の亜麻色の髪を揺らす。

自分が身を置いているのは、半田家。身寄りのなくなった己を引き取ってくれた心優しい一家である。殆ど他人と言える双方が一つ屋根の下で暮らすようになったのは、未だ自分が幼い頃に隣人で、この家の長男・透が愛美を一生の恋に落ちてしまった所から始まる。それから十年経って今の状況になっており、透の彼女になっていた。
透と言うのは巷で人気の”高校生探偵団”の一人である。是亦有名な私立探偵の毛利小五郎の助手(手足)となり、日夜他のメンバー(新一・平次・快人・探:彼らは従兄弟)と難事件を解決している。…例によって彼は今、ゴールデンウィークにも関らず、血生臭い殺人現場へと足を運んでいる。

すっかり、探偵の女房、として知り合いからは周知されている愛美は今、半田家の書庫に居た。同じ探偵団の工藤新一の家にある書庫ほどではないが(彼のお父さんは有名な推理小説家)、これまた半田家の主も、世界帝に有名な脚本家であって、その為か本の蔵書数は多い。三十畳の円形の部屋に、五メートルはある高さの四方の壁にずらりとハードカバーから最新の映像関連の雑誌まで、所狭しと並んでいる。全て脚本家の俊平の資料集である。
休み中にと出された宿題も終え、やる事が無くなってしまった愛美は、其処へ足を運び、書架の一角にある母・奈津子が購入した恋愛小説を読んでいた。勿論、俊平の集めた本も読んでいたのだが、実際社会論などは難しすぎて頭に入らず、結局趣味の合う奈津子の本にたどり着いたのだ。

先から三時間ほどかけて二冊読んだ。俊平や透が挙って集める推理小説やサスペンスもの、社会論などよりかは、幾分か読みやすいし、血生臭くもない。

今呼んでいるのは、「偶然」という題名の勿論恋愛小説。数年前に映画化された有名な小説だ。
内容は、大学に通う青年が休みに行った旅先で、同じ日本人の女性と出会う。時間を共に過ごすうち青年は女性を好きになる。しかし旅行のため殆ど互いを知る時間も無く、青年は女性を忘れられぬまま帰国する。当然青年は女性を好きになっているのだが、もう一度出会うための手掛かりが無い。数カ月かけて探し出せた女性は日本に居たものの、幼馴染の恋人を事故で亡くした、傷ついた背景を持つ人だった。女性は青年との再会を喜んでくれたものの、婚約者で会った恋人を忘れられず、どこか影が在る。青年はどうにかして立ち直って元気になってほしいと望み、女性の傍で励まし続けるものの、心のどこかでそんな恋人の事を忘れて自分に靡いて欲しいという気持ちが生まれてしまい、葛藤する。
最後は、女性は見事悲しみから立ち直り、新しく、青年と人生を歩き始める、というストーリーだ。

胸を打つような文章が満載で、しかも何となく人ごとのように思えない内容だった。
葛藤する青年と、徐々に心が変わり青年を好きになって行くが、無くなった恋人への戒めか素直に応えられない彼女。
そんな女性の気持が分かる、少し前の自分と、感情が重なって行くからだ。
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