NOVAL

□kissing you
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もう、真夜中を過ぎていた。
事件を解決に導くべく、脳内の細胞を全て使っている時は時間感覚と言うものはなく。犯人を明らかにした後居合わせた高木刑事が「送るよ」と言ってきた。「いや、大丈夫です、電車で…」と言いかけて左腕の時計の針を見て、高木刑事の申し出に甘える事になる。何しろ、短い針が十二の文字を過ぎていて最寄りの駅へ通じる鉄道は既に終電を迎えていたからだった。

パトランプが取られた佐藤刑事のRDを高木刑事が運転し、血に塗れた殺人現場から透の日常の場へ、見慣れた所へ戻していく。(佐藤刑事は当然の如く助席)後部座席で第三京浜の流れるライトを見ていると、佐藤刑事が口を開く。
「そういえば、半田君の家に女の子が来たのよね?」
「ええ。」
「愛美ちゃんって言ったね、確か同い年?」
「はい、同じ高校で」
脳内を完全に使い切った後の、無になった頭の中にぽっかりと愛美が浮かぶ。笑っている愛美だ。
「どんな子?」
思い出して僅かに笑んだのがミラー越しに分かってしまったのか、佐藤刑事が問うてくる。
「あいつ…まあ可愛いけど、身寄りが無いせいかあんまり人に頼ろうとしないかな、去勢張ってるって言うか…」

愛美は、親と姉を目の前で殺され、長く共に生活していた孤児院の仲間と母と慕っていた修道長と結婚の約束をしていた最愛の恋人をテロで亡くし。”死”というものに悲劇的に慣れあっていた少女だった。辛く悲しい出来事が愛美の深層心理に影響を及ぼしているのか、”一人でも平気、頼らない”良く言えば自立型の人間だった。けれど一人にされる事を特に嫌い、雨や雷など悪天候も心情に変化が在るのか、嫌う。
そのたび、俺は愛美の涙を見て、この世界の不公平さを呪うのだが。

「半田君、着いたよ」
愛美の事について話しているうち、いつのまにか自宅に到着していた。立派と言える外壁の上、門燈はついているものの、門の向こうに見えるリビングの明かりは消えていた。もう深夜なのだ、さすがの奈津子も寝ているだろう。
「態々送っていただいて、有難うございました。」
「いや、こちらこそ事件解決の協力どうもありがとう」
車のパワーウィンドウを開けた高木刑事と奥から覗く佐藤刑事に一礼し、足早に門をくぐる。

――――RDの中
「…女の勘、言っていい?」
「え?」
「絶対半田君、愛美ちゃんのこと好きよね。ああ、私もその名探偵をオトした女の子を見てみたいわ!」
「女の勘じゃなくてもわかりすよ、俊平さんの話じゃ、幼いころから好きだったみたいですよ」
他人の恋路は公衆の娯楽である。
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