NOVAL

□忘却川
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もし今悲しみ、溢れるなら

私にもたれて泣いていいから。



かごめは溜め息をついた。
鬱蒼と夏草が生い茂る林を抜け
旅先から現代の実家までの
帰路をとっていた。
右も左も分からないような所を
一人で歩くと、淋しさが一段と
こみ上げてくる。本当なら
仲間達と歩きたいのだけれど。
しかし仲間達と一緒なら、この
一人淋しい時間は無い筈だ。

西の方へ、歩を進めていた一行。進むごとに、かの巫女桔梗の影をちらほらと耳に挟むようになった勿論彼、こと犬夜叉は耳にする
噂をすべて飲み込み、かごめや
弥勒の止める声など聞こうとせず桔梗に会うべく、翻弄していた。弥勒は単に犬夜叉は頭に血が
上っているだけだと、
かごめに言ったが、気休めとしかならなかった。どちらにせよ
犬夜叉は桔梗に会いたい一心からくる、行動だったのだから。
西へ西へと行くととうとう
桔梗の姿を目の当たりにした。
と言うより、1人でたまたま
いたとき、死魂虫が空を
飛んでいるのに気づいたのだ。
桔梗が近くにいる―――!
そう察し、かごめは犬夜叉に
急いで伝えようとした。
だが心に一瞬の闇ができた。

犬夜叉が桔梗と逢っている
姿なんて見たくない―――!!

申し訳無さそうに仲間の元を離れ桔梗の元に行く犬夜叉の後ろ姿もいつか見てしまった逢引の瞬間も自分の元へ帰ってきた犬夜叉の
顔も全て嫌だった。
かごめにとって苦痛以外の
何にでもなかった。

みたくない――――…

そう心にできた闇は、かごめの
体を必然的に動かしていた。
具合が悪くなったから、実家に
戻るとだけ仲間達に伝えると
歩いて、楓の村・骨喰いの井戸を目指した。
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