NOVAL

□接吻‐なかなおり‐
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いつものように、学校から帰宅し昨夜準備しておいたリュックサックを背負い
母親との会話もそこそこに玄関を飛び出し、あの、骨喰いの井戸に向かう。


テストがあるからと、犬夜叉と喧嘩腰で別れてきた3日前。
夕方までには帰ると、約束までしてやっと帰らせてもらえたのだ。
きっと今、犬夜叉は井戸の前で腕を組んでわたしの帰りを待っている筈。

そう期待して、井戸をくぐる。

だが、戦国時代に付き井戸から出ても犬夜叉は居なかった。

「あんまり遅いから、小屋に戻っちゃったのかな…」

井戸のある、犬夜叉の森から降りてすぐの所に、楓の住む小屋がある。
ちょうど現代で言うとかごめの家の、長い階段の麓辺りに当たる。
妖怪や悪党が出られても困るので、足早に森を通り抜ける。
森を下り、小屋の入口に掛かる暖簾をくぐる。

「ただいま、みんな。」

いつものように、仲間達が急速を取っている事をイメージして。
もちろんかごめの帰りに、仲間達は嬉しそうに迎え入れる。
現代から補充してきた食糧や薬品を紹介して、草太から預かった玩具を七宝に渡す。
一通り渡し終えてから、リュックサックの一番底にあったカップラーメンを取り出す。

「そういえば、犬夜叉は?」

カップラーメンはかごめが現代から持ってくる物の中で、一番犬夜叉が好きなものだ。
3日前帰るときも、持ってくるように言われたのだ。
薄々気づいてはいたが、小屋の中に見当たらない人影がいた。

もちろん、犬夜叉だ。

かごめの問いに、珊瑚が慌て、取り繕うように答えた。

「さ、散歩だよ!」

しかし、かごめには分かっていた仲間達の反応と、姿を見せない犬夜叉が何処に行っているのか。



「桔梗の所ね。」


「かごめ様…」

思い出したように、弥勒が何か付け加えようとしたのか、呟いた。
だがその続きをかごめは聞きたくなくて、無理に遮った。

「ママから、お弁当を預かって来たの。いっぱいあるから楓ばあちゃんも食べよう。
あったかいうちに食べないと不味くなっちゃう。」

もう一つ、リュックの底に詰まっている大きなお重箱を取り出し、囲炉裏の周りに置いた。重箱を開くと、
そこにはいつも母が作る見覚えのあるおかず達が沢山並んでいた。
七宝がおかずの中でお気に入りの蛸さんウィンナーを珊瑚の制止も聞かずに口に頬張る。
楓も、綺麗に焼かれた卵焼きを一つ口に運んでいる。
これまた現代から持ってきた箸を、手掴みじゃ酷だろうからと、かごめが皆に配る。

なるべく、笑顔で。

かごめの様子を間近で暫く見ていた弥勒が、かごめに問う。

「かごめ様、お一つよろしいですか?」

いつもの冗談を言う顔ではなく、奈落と対峙する時のような至って真剣で真面目な面持ち。

「なあに?」

聞かれようとしている事は、なんとなく見当が付いている。
答えたくないので、できるだけその雰囲気を打ち消す様に明るく返答する。

「何か、我慢していませんか? 我慢せず、我々に打ち明けて下さい。」

弥勒がかごめに打ち明けて欲しい事は、もちろん犬夜叉との事だ。
無理に笑顔を作って、接せられる方が、仲間達にとっても気を使ってならないから。
それはかごめ自身分かっている。
何もかも、打ち明けられてしまえたら。どんなに楽だろうと憧れる。
心に降り積もる、邪悪な感情をすべて吐き出したとしたら・・・
でも、それはできなかった。
打ち明ける事を、解放したら心に詰まる感情が全部表に出てしまうからだ。
出てしまえば、私は私で居られなくなる。
仲間達の、かごめの印象は清らかで、暖かく、常に真っ直ぐである。正しい決断を知っている。
それは、感情を押えきる事で初めて作られる性格だから。
解放したら、それは壊れてしまうだろう。
それが怖くて、打ち明けないというのに。

「やだ、弥勒様。何もないよ。」

「食もあまり進んでいないようですし…」

先程から、弁当に一つも手をつけていないのだ。

「あ…ちょっと最近食欲ないの。大丈夫よ。」

(いつもの笑顔が辛い…話しかけないで…)

仲間に心配も本当の姿も見せたくなくて、作る笑顔。
無理にあげた口角が、引きつっているのが触らなくても分かる。

「でも…」

弥勒が何か続けようとした。
これ以上、この場に居続ける事がいたたまれなくて

「私、ちょっと空気を吸ってくるね…」

矢継ぎ早に、小屋を後にした。
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