NOVAL
□僕の彼女は
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「…は?」
開口一番は其れだった。
驚きを平静と言うオブラートで包んだかのような己の表情をいとも容易く園子は見破って、悪戯に笑った。
暮れ始めた夕陽の橙に、西向きの廊下と己等は染まっている。
入部者以外の生徒はほとんどもう帰宅していて、この階には二人しか居ない様子。だから園子もこんな教室の前で新一を辱めるわけだ。
二人とも、今頃部活の後輩指導に当たっている元・空手部主将の毛利蘭を待っていて、暫くはお互い別のことをして過ごしていたのだが、図書室で暇潰しをしていた新一を園子が呼びつけ、連れられ、自分のクラス(3-B)の前。に至る。
「だから、隣のクラスの山坂、知ってるでしょ?」
「ああ」
山坂と言えば現在は引退したが剣道部の大将で女子にも人気がある。
「それと江田」
「D組のか?」
江田は"イケメンな生徒会長"で一躍有名になった奴
「一年の輪島君」
「あー…空手部。」
甘いルックスと切れの良い動きで先輩(女)に可愛いと目星をつけられていた奴。
「二年の中澤くん」
「あ、それ…」
どちらかといえば新一とはタイプが真逆で派手目。部活には属していないし、少々やんちゃな行いから学年の違う生徒等にも知られていた。
ただ中澤は新一にとってそれだけではなかった。
「この前蘭に告白してたヤツよ」
知ってる。
思い出すだけでイライラしてくる。彼奴は「彼氏(新一)がいるからごめんなさい」と丁重に断った蘭に対して「そんな断り方で納得できない!」と蘭を呆気にとる言葉を発し、不埒な悪戯を働こうとしたのだ。
その場は蘭が咄嗟に顔面を正拳で回避して、園子を介して新一の耳に入り、そりゃまあ忠告をしてやった。
(それ以来中澤は新一の姿を見ると顔が青ざめ、一目散に逃げ出すらしい)
中澤は新一のブラックリストの上位に記載されている人物だった。
「…で、そいつらがどうした?」
「驚かないでね、彼ら、蘭のファンクラブを作ったのよ。それも熱狂的な信者。蘭のためなら死んでも構わないってやつ」
バカな奴らだな、と新一は呟く。
自分も少し前までは、蘭を愛するが故、蘭を守るために己の命を犠牲にしてもかまわないと思っていた。
だけど蘭に「守られて死なれるなんてイヤ」と言われてからは、蘭のために死ぬんじゃなく、蘭のために生きて一緒に居たいと思うようになった。
探偵をしているなら尚更。
信念の違いに、新一は優越感を覚えた。
「…で、それを俺にどーしろと?」
蘭のファンクラブは校内校外問わず存在するのは既知。
新一がその中で嫌われているのは、負け犬の遠吠えにしか聞こえないから気にならない。草葉の陰で指をくわえている奴らなんて心配するに値しない。
それが接触率が多少上がる校内でもって然り。
「ううん、ただ山坂と江田は蘭と仲がいいから、危ないかなぁって。言ったでしょ、熱狂的だって。」
おまけにファンクラブの会長は中澤で、全員が蘭と同じ委員会だからね、と付け足した。
「それはどーにかしなきゃな」
園子が去ったあと、呟いた。