NOVAL

□僕の彼女は
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部活の後輩指導を終えて来た蘭が、教室の前で先ほどのまま居た新一を見つけ、駆け寄ってきた。


「ごめんね、新一。待ったでしょう?」

何事にも他人を気配れる箇所が蘭の良い所である。

「いや、大丈夫。さ、帰ろうぜ」

足下に無造作に置かれていた鞄を肩に背負い、昇降口へと続く方向に歩き出す。
テンポ遅れて蘭が歩き出し、悪夢を告げた。


「ごめん新一、今日は一緒に帰れないの!」

「…は?」

本日2回目の驚きと平静をオブラートで混ぜ包んだ表情が登場した。蘭は園子と違ってオブラートの存在に気が付いていないが。

「…後輩に駅前で遊ぼうって言われちゃって…一か月も部活に顔出してなかったし、少し付き合わないとね、先輩として?」

「別に今日じゃなくてもいいんじゃねーの?」

「ぜひ今日!って言われたんだもん。断れないよ、可愛い後輩だし…」

そうやって言い訳している蘭の方が可愛い、とオブラートの下で思う。
しかし、駄々を捏ねるのは自分らしくないと踏んでいる為、オブラートの上では聞き分けのいい理性の強い男を演じる。

これも、蘭の為。

「わかった。でも晩御飯、作りに来てくれよな。今日オジサンいねーんだろ?」

「うん、誰かさんの置き土産のせいでお父さん働きづめだから。」

前を歩く新一の顔を覗きこんで、意味有り気な笑顔を見せ、“誰かさん”を軽く非難した。その“誰かさん”は口を尖らせて顔に浮かんだ冷や汗を指で払う。

「んなこと言うなよ。おじさんの今までに比べたら、いい方だろ?」

「都合いいわねー。じゃあ帰りに新一のとこ寄るね。あ、後輩待ってるから行くね!」

「おう、頼んだぜ」

蘭が教室内の時計を見て、大分時間が経過していたらしい、最後は早口に話を切り上げると、鞄を掛け直して昇降口まで走って行く。
顔だけ振り返って手を振る蘭に、新一も手を振り返す。






――――本当は、さっきの話の後だからあんま離れたくないんだけど…

しょうがないよな…蘭、俺だけのものじゃないし。
我儘言って蘭に嫌われたくないし。




今まで蘭に好かれようと、蘭の側にいる為に作りあげて来た考え方・人格が、最近己に合わずぶれて来てしまっている。
好きな気持ちは変わらずあるのに、欲望や我儘が多すぎて、自分を抑え過ごす事が出来ない。

付き合い始めてからなんだ、こんなの―――







立ち止まり佇んでいた廊下から、一階の昇降口が見下ろせる。
ふと、目線が其処に向かった。

「あれ、蘭…」

下には、今しがた己と別れたばかりの蘭が“後輩”と昇降口から出て校門に向こう姿があった。
如何にも部活終わり、と言う雰囲気が漂っている。が――――新一の気は違う方へ集中していた。

「アイツ――――」

蘭と、後輩達の中、その中の一人――――

「輪島、とか言う奴―――」

確か一年、園子は空手部だと言っていた。
部活が同じなのだから、関わりがある事は確かだが、その瞬間の輪島の蘭に対する接し方が気に食わなかった。
新一は何度か空手部の練習を見学した事があるし、彼女の入部している所の為、男女混ぜて後輩の顔と名前くらいは知っている。主将の蘭を強く慕う面々が其処に揃っていたのだが、輪島は彼らたちとは違う雰囲気を持ち合わせていた。

楽しそうに談笑しながら歩く彼らの中の輪島は蘭の右隣をキープし、会話に口を挟むにも一々蘭の顔を見ながら喋っている。
蘭と喋っている時の顔が、如何にも“好きです”と現わされていて、苛々する。





『要チェックだな』

あんな糞生意気な餓鬼、新一にとって敵ではないが。
苛々するし、蘭に何かあっては困るので。

ブラックリストにしっかりと書き込んだ。
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