NOVAL

□ウチの彼氏は
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和葉は私室にいた。
合気道の稽古を終え、疲れた体のままその身をベッドに放り投げた。多く運動した後で、汗ばんだ体と制服のままだったが、一度ここで休まねば、階下にある風呂場に行く気力がわかない。この様子を母に見られたら小言を言われそうだが、今は買い物に出かけているし、一人除けば、しばらく安心だろう。


「ふぅ・・・・」

近いうちに大会があるため、和葉の通う同情の師範代の指導の熱はいつもより倍だった。
和葉ももちろん、大会では優勝を目指しているから、師弟ともども燃えているが、それでもこの稽古が終わった後の疲労感は嫌だ。

「ちょっと、寝よ・・・」
母が買い物から帰ってくるまでの一休み。夕食の手伝いだってしなければならないし、先ほど言ったとおり風呂にだって入りたい。それまで、一休み。
ふ、と和葉は心身の疲れに誘われるまま、瞼を閉じて体を横に傾けた。そしてそのまま夢の世界に落ちてゆこうと意識を飛ばしかけたとき、階下のほうからどすどすと野暮な音が聞こえ始めた。
「来た・・・」
和葉に対し礼儀作法に厳しく言う母がこんな無作法な足音を立てるはずがない。父も母にうるさく言われて、なるたけ足音を立てないように家で気を使っているし、そもそも父はあまり二階にある和葉の部屋にはこない。
こんなにも大きく足音を立てて、和葉の部屋にやってくる人物はただ一人だけだ。
すぐに和葉は、その人物がわかってため息をついた。
自分の眠りを邪魔するやつだからだ。

先ほどよりも足音が近くなって、ノックされることなくいきなりドアの扉が開く音がして、和葉は恨めしそうな顔で瞼を開いた。

「和葉居てるか?」
「平次・・・おるけど」
「なんや寝てたんかいな」

悪いことしたな、と平次は眠たそうな顔をしていた和葉に言う。
嘘付け、たとえ和葉が寝ていたって帰る選択肢なんて無く、どのみち起こしにかかるくせに。
平次はどすどすとそのままの歩き方で、ベッド横のミニテーブルの前に座った。
「稽古、辛いか?」
「・・・まあいつものことやから。今更嫌なんて思わへんけど・・・」
和葉が機嫌悪いのも察知したようだが、気に留める様子はない。
「オバハンは?」
「買い物。もう少ししたら帰ってくるんやないの?」
「今日うちのオカンが出かけてて、和葉のとこに夕食食べさせてもらいたいんやけど」
「ええんやない?平次が来ると作りがいがあるってオカン言うてたし」
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