NOVAL

□あたしの彼氏は
2ページ/5ページ









青子は呼び出した。
一番今、自分を救ってくれそうな人を。





「え、黒羽君が隠しごと?」
「うん、確証はないの。でも思い当たる節がいくつかあってね。」
「聞かへんかったん?」
「聞こうとは思ったこともあるけど、でも怖くなっちゃって…」
「せやな、怖なる時あるなァ。」



週末、土曜の正午前。
表参道のカフェにて。


青子が呼んだ人物とは、自分と似て非なる少女と朗らかな大阪弁の少女である。
「蘭ちゃん、和葉ちゃん、どうしたらいいのかなあ」
「そうね…難しいよね。悩んでたことが取り越しぐろうだったって時もあるし」
「逆に悪いことだってあるしなぁ…」

双子でも親戚でもないけど、何処となく雰囲気とか容姿が似ている女の子は毛利蘭。
あの眠りの小五郎と呼ばれる、毛利探偵の一人娘さん。
で、今は日本を誇る名探偵・工藤新一の恋人さん。
蘭の元からの友達で、大阪に住んでいるポニーテールが特徴の女の子で、大阪府警に勤めるお父さんを持つ遠山和葉。
今は、工藤新一と背合わせに名を轟かせている服部平次の恋人さん。

工藤新一と服部平次は快斗の親友でもある。
つまり青子と蘭と和葉も親友。

快斗には打ち明けられないことは、同性の信頼できる友達に打ち明けるのが一番である。


「ねえ、蘭ちゃん」
「なに?」
「蘭ちゃんはどうしたの?
ほら、工藤君に前に大きな隠しごとされてたって言ってたじゃない?
あの時、どうしたの?」
「あ、それは平次も絡んどったみたいやで。なんや知らんけどしょっちゅう工藤君と連絡取りおうとるみたいやったし。」

蘭の彼氏、工藤新一はほんの半年前まで事実上“行方不明”になっていた。
それまで事件を解決するたびニュースや新聞でちやほやされていた彼なのに、ぱったりと音信不通に成り。
幼馴染であった蘭でさえ、連絡は殆どとれておらず、新一の動向が解らなかったらしい。
“何しているの”と問うても“厄介な事件にかかわっている”としか返らない答えで。
それには、彼が行動を公に出来ないような事件が絡んでいて、蘭と連絡が取れない事も、新一と親しい関係である彼女に危害が及ばないようにするための苦肉の策だったらしい。
工藤新一は、無事其の灰色の脳で事件を解決させ、いっぱしの高校生としての生活を再開することができ、人生分の恋を見事成就させたのだ。
どんな事件だったのか、その間彼はどうしていたのか、どうやって解決に導いて言ったのかは他人である青子は詳しくは知らない。

ただ、工藤新一の最愛の恋人である蘭には、全てが打ち明けられているらしい。

工藤新一が行方知れずになっていて、その理由を全て彼の口から聞いた時、どう思ったのか。どうしたのか、青子と似たような境遇を経験した蘭に体験談を聞きたかったのだ。




蘭は少し目を伏せて考えた後、静かに言った。
「新一が居なくなった時はまさかそんな大きい事件に絡んでたなんて思いもしてなかった。
私よりも凄く辛い想いをしてたことも。」
「平次はそれを知らんと、なんや面白がってたけどなァ」
「実は姿を消してた新一が、戻ってくるまでの間私に一番近い所に居た事も最初は気づきもしなかったの。」
「え、工藤君て近くに居たの?」
「そう、私に何も言わなかったの。ヒドイ奴よね」
「そや、それで頻繁に平次は工藤君と連絡とりおうてたんや。
蘭ちゃんが大阪くるとなると“工藤が来る”言うて平次五月蠅かったし」
「…蘭ちゃん、怒んなかった?」
「怒りたくはなったよ。でも新一なりの私を守るためにそうしてたから、嬉しかったよ」
「…青子は嬉しいって思えないかも」
「それが青子ちゃんの為、じゃないんだ?」
「うん、青子よりも自分優先って感じで」
「ややこしなぁ…いっぺんウチが黒羽君どついたろか?」
「ううんそれは大丈夫;」


新一は蘭を守るために、蘭に秘密があった。
しかし其れを知った蘭は納得している様子。
状況を自分達に置き換えて、快斗が青子に秘密があるとして、其れがはたして青子の為の秘密なのか、信じられない。
蘭同様秘密を知った時、青子は納得できるのか不安だ。
そもそも、蘭と新一・青子と快斗、幼馴染で恋人と言えども関係性が同じなだけで全てにおける事が同様かと言われると、答えは肯じゃない。
ますます青子の脳内にクエスチョンマークが増えて行くばかり。


「工藤君の隠してたこと、工藤君から言われたの?それとも聞いたの?」
「新一から言われたわ、再会一番目に」
「やっぱりそうなんだ…まってるしかないのかなあ」
「ウチ、そんな気長な事でけへん…」
「青子もだよ…」
「それまで言わなかったのは、言えなかった訳があるんだなって分かってたから。それに薄々気づいてたしね。」
「え?気づいてたんだ?」
「勿論、幼馴染の顔分かんないような馬鹿じゃないもの」
蘭が朗らかに笑う。
瞬間、この人は心底彼を愛して、愛し続けているんだと気付き青子は少し聞いていて恥ずかしくなる。
「言えない理由があるんなら、無理に聞こうとするのは駄目じゃない?
だから言ってくれるのを待ってた。まあ本当は聞かなかった理由に青子ちゃん見たく“怖い”って気持ちがあったんだけどね」
「蘭ちゃんも怖いって思ったんだ…」
「多分それを、新一が見抜いてたんだと思うよ。私が言ってくれるのを待ってるって。
新一自身再会出来たら一番に言わなきゃいけないことだって戒めてたみたいだし。」
アイスティーを啜った蘭が、同い年の筈なのに、似ている彼女なのに、どうしても青子よりも大人に見えた。
それは蘭と青子のアイスティーのグラスにストローがついているか否かの問題ではない。
「ウチ無理や、何があっても聞いてしまいそうや」
“気長に待つ“というか“待たされる”行為自体好まない和葉は、物凄く嫌そうな顔をして首を左右に振る。
一方の蘭は“待つ・待たされる”行為を好きらしい。
彼の隠しごとに対する処方の仕方は、性格それぞれなのか?と青子は眉をしかめて考える。

「蘭ちゃんは、探らへんかったん?工藤君がどこにおるか」
「探したわよ、気づかれないように携帯とか」
「え、携帯?!見ちゃったの!?」
「見た。でもうまく交わされたけどね。頭脳線は何枚も新一の方が上だし」
「そやねん。探ろ思ても平次には勝てへんのや」
頭脳戦と言う単語に、和葉も力一杯同意する。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ