NOVAL
□俺の彼女は
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月曜日
いつも通り快斗と青子は一緒に登校した。
生徒が往来する昇降口
同じクラスの二人は、各々の下駄箱の扉を開けた。
バサバサバサッ
擦れる乾いた紙の音。
無惨にも簀の子の上に落ちたそれを快斗と青子は黙って見つめた。
「青子ーおっはよー!って、どしたのそれ?」
背後から陽気に、雰囲気をタイミング良く破ったのはクラスメートの桃子。
青子の足下に広がった其れを一枚手に取ると、目を丸くしてまじまじと興味深そうに見て、興奮気味に青子に問う。
「これ、あんた宛てのラブレターじゃん!すごい数…」
下駄箱から音を立てて、落ちたのは青子宛てのラブレターだった。
「今時ラブレターなんてねー」
確かに今時普通の高校生なら携帯を持っている。
友人を辿って、意中の人のメールアドレスなりケー番なり知るのは難しくないはず。
桃子が少し棘を入れて口にしたのは、快斗に聞こえるように。
ラブレターの差出人たちが、ラブレターに限ったのは、快斗の男除けのフィルタリングを青子の周囲に掛けていたからだ。
だから、ラブレター。
「どうしようこれ、捨てるわけにもいかないよね?」
昇降口の隅に置かれたごみ箱を視野に、青子が困った顔をする。
快斗としては、そんなもの即効あのゴミ箱に捨ててしまえば良いと心の内に思うがきっと逆の立場だったら、自分に好意を持っている子の気持ちを無下に扱えないと一瞬、考えてしまった。
「うーん、読まずに捨てるってのも気が引けるしね。とりあえず教室持ってって、一通り目を通したら?」
一番妥当な所を桃子が提案する。
そうだね、と軽く頷いた青子は、跪いて足元に散らばったラブレター達を拾って、丁寧に鞄に仕舞った。
『面白くね―、面白くねー』
目の前で自分の彼女(みたいな人)が他の野郎に告白されている現場を目撃し、静観しかできないなんて、面白くない。
第三者(つまり桃子)がいなければ、等に口を挟んで、青子にラブレターを触れさせる事無く消滅してしまっていただろう。
教室に着き、快人が自分の席に座ろうとしていると、桃子が青子の元へ行ってニヤニヤしながら勝手に鞄の中身を開けていた。
「ちょ、桃子!」
「こういうのは皆で楽しみを共有するものなのよ。遅かれ早かれ見るんだから、ね!」
などと適当な事を言って、桃子は次から次へとラブレターを開け、目を通していく。
他人のものとは言え、少々乱雑さが垣間見えるのは桃子の性格か、快人の錯覚か。
青子の溜息を聞きつけた、他の女子が青子と桃子の周りに集まり、群がる。
「なにそれ、どしたの2人とも」
「ああこれ見てよ!さっき青子の下駄箱に入ってたラブレター達を!あっつーい内容が詰まってるわよ」
「ウッソ、告白!?どうすんの青子!」
「この中から選ぶわけ?やーより取り見取りってか?!」
「馬鹿ね、青子にはもう決まった人が居るから全部却下!」
「何さまだよ、このこの!」
と勝手に桃子に続いてラブレターに手を掛けて行く。
「あ、あのね、みんな…」
まるで争奪戦かのように、机の上に在った手紙達が、獲られていく。
青子はあっけにとられて反論する気もうせてしまった。
「でも、ホントにどうするの?この内容、『返事を待ってます』って言う人もいれば『○時に△で待ってます』って言ってる人もいるよ?まさかこの全員に返事するつもり?」
「…駄目かな、それじゃ…」
「ダメだよ、だってそんな律義にする必要ないもの!あんたはだって…」
クラスの女子が言いかけたことを、快斗は予知した。というか十中八九其れ。
『あんたはだって黒羽君と付き合ってるんじゃない---』
困り顔の青子を横目に、快人は机に伏せた。