NOVAL

□俺の彼女は
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恵子に襟を掴まれ、引きずられた状態で東棟非常階段へと急ぐ。



非常階段へと続く廊下に出た所で、恵子の襟を掴む手が解かれ、後ろ向きに引きずられていた状態も戻る。

「ったくさ、なんで青子の事に成るとダメになっちゃうんだろうね、黒羽君って」
唯の独り言か、快斗への愚痴か説教か分からない程度で恵子が言う。


『俺だってちゃんと考えてるし…』


ちゃんと考えている。
どうしたいとか、どうしなければならないとか

一応、その場に必要な言葉も思いつく。
でも考えている、だけで
幼馴染以上恋人未満という不安定な関係のせいか
言葉を口にしていいか、行動を起こしていいか
、行動選択が正しいのか分からない。
考えているだけで、何もしていない。






廊下の突き当たりから出れる非常階段。
階段の踊り場に続く、古びた鉄製のドアは開けられたまま。
普段は内からしっかり鍵が掛けられているが、このように開けられている状態だと、「外に誰か居るから閉めないで」の暗黙の合図なのだ。
つまりは、この扉から青子とラブレターの主が出て行ったという事。

「行くよ、黒羽君」
間近にして腰が引いている快斗を逃さない、という表情で恵子が音をたてないように、ドアから踊り場へと進んでいく。












非常階段は下ると中庭の隅に出るが、上は屋上へつながっている。
中庭と屋上には昼御飯を食そうと出て来た生徒達が群がって居る為、十中八九殆ど人の通らない屋上までの所に居る筈。

自分の立てる足音に注意して、一段ずつ上がっていく。


すると先を歩いていた恵子が止まり、進もうとしていた快斗を手で制した。
「どうした?」
尋ねると、ツインテールをこれでもかと大げさに振って小声で言う。
「この上に青子がいる。声がした。」

と言うので恵子の先に行き、自分達の居る場よりも一つ上の踊り場をこっそりと覗く。

『青子……』

其処にはまぎれもなく青子が





「…貴方が、私に手紙をくれた人…?」

「うん、まさか本当に来てくれるとは思わなかった」
ここからでは、相手の顔は見えない。

『なにが本当に来てくれるとは思わなかった、だ。青子が律義な性格だと知ってるんだろ…』
青子が自分の気持ちよりも、他人を優先するような性格を利用した、あくどい手口である。

「…で、あの…この手紙に書いてあったことなんだけど…」
「あ、考えてくれた?」
「うん、でも短時間だったから…その、貴方の事良く知らないし…」
「い、今答え出ないんなら、明日…いや明後日とかでも全然平気だよ?それに、これから俺の事知ってくれればいいんだし!」
「いや、その、そういう訳じゃなくて…」
「だって中森、付き合ってる人も好きな人も居ないんだろ?別に誰と付き合おうと関係ないよ?」
「…そ、そういうもんなの?」

敬語だった青子が途端に地を見せる。
自分の知らない知識を教え込まれた時の声だ。
「マズ、青子流されてるよ」
と恵子が言葉同様不味い顔をする。
快斗も然り。

「うん、好きな子とかつき合ってる奴が居ないんなら、普通、付き合うよ?」
「……」
「中森、好きな人も付き合ってる人も居ないんだろ?いいんじゃん、付き合おうよ」

「青子、推されてる…」
無知な親友に呆れている恵子。


「うん、でも…」
変な知識を教え込まれた青子だが、気持ちだけはまだ流されていないらしく、迷っている。
「な、いいだろ?」
高校生の一般的恋愛事情事実を知り迷う青子に、このチャンスを逃すまいと後押しし、抱締める如く青子の肩を掴む。




瞬間、快斗の脳内で何か切れる音がした。





「ああ、馬鹿青子…って黒羽君?」
恵子の制止を振り切って、隠れていた壁から身を乗り出し、
青子と手紙の主が立つ踊り場へと階段を上がっていく。

「おい、人の女に変なこと・・・・・・・!!!」
鬼の形相で、主に詰め寄ろうと間に割って入った瞬間、その場に青子の声が響いた。






「ごめんなさい、私快斗のこと好きだから!付き合えない!」




「え?」
「…へ?」
「青子…」
さて、三つの言葉、誰がどれか?
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