NOVAL

□俺の彼女は
5ページ/6ページ









「さぼっちゃった、授業」
雲の殆どない青空を横に、青子がぽつりとつぶやく。

「だったら行けばよかったじゃねえか。桃井戸教室によ」
「だって多分殆ど耳に入らないもん。一度でいいから快斗みたいにやって見たかったんだよね、サボりって」
腕を伸ばせば届く距離に、快斗も居た。





あの後、振られて傷心の隣クラスの男子と、それを無事にクラスまで送り届ける恵子は去って行った。
ほどなく昼休みの終わりと、5時間目の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、このまま階段に居ても廊下を通りかかった教師に見つかり怒られるだけなので、教師の来ない屋上へと、残された二人は上がった。



微妙な雰囲気で屋上へ来た快斗と青子だが、屋上へ着いてからの会話は、何時も通りのどうでもいいようなものだった。



「あ、ほら快斗!あの雲お魚さんみたいだよ!」
「魚の事は言うな、口に出すなっつーか雲を何かに例えるとかどんだけお子様なんだ」
「何よ、未だにお魚食べれない癖にさー」
「いーんだよ、魚は喰わないって決めたんだ」
「屁理屈こねちゃってさー」

どっちつかず、な内容だ。






「・・・・・」
「・・・・・」
けれど直ぐに来てしまった、静寂。

何時も通りの会話も、互いが静寂を作りたくない為に無理して場の雰囲気を盛り上げようとしていただけのこと。

下の方で授業を受ける生徒達の声が聞こえるが、それ以外は相手の大きな呼吸しか聞こえない。



ただ青空を眺めているだけ。













このままではいけないと、腹を決めて
初めの言葉の為の息を思い切り吸う。
「青子」


「…なに?」
ワンテンポずれて青子が返事をしてきた。
「さっき、あいつに対して言ってたこと…なんだけどよ」
「あ、うん。」
「あれ…本気で受け取っていーか…?」


“さっき言っていた事”
青子に対して有利と言わんばかりに馴れ馴れしく、無遠慮な隣クラスの男子に頭にきた快斗が、迫られている青子を守ろうと二人の間に割って入り「てめえ人の女に手ぇ出してんじゃねえよ」と言いかけた同時に、男子に向かって顔を赤くした青子が言い放った、言葉。

『ごめんなさい、私快斗の事が好きだから付き合えない!』



まさか守ろうと背に隠した女が、自分が言い放とうとした言葉よりも強い力を持つ言葉を言うなんて。
しかもその内容に、言おうとしていた言葉の様な男らしい、男としてのプライドなんて打ち砕かれてしまい。
きっと男子に向かって格好悪い、緩んだ顔をしていたと思う。



「うん、受け取って。」
「まじ?本当に言ってる?」
青子の柔らかな言葉に、寝ていた身を起して青空を見ていた青子の顔を覗きこむ。
「当たり前でしょ。盗み聞きしてたのはちょっと怒ってるけど、快斗だって“人の女に”…って言ってたじゃない」
「あ…あれはああでも言わねーと収集つかなかったからよ…」
あの時は男子の行動で頭が真っ白になっていた。
だから何時もは言おうとしても深く考えた結果言い留まる彼氏発言ともとれる、其の言葉。
『おい、人の女に変なこと…』とまで言い掛け二人の間に入った瞬間青子が爆弾並みの言葉を落として、
快斗は思考が停止してしまうし、青子は顔が真っ赤になっているし、男子は真っ青だし。
慌てて出て来た恵子が全て収集つけてくれたのだ。
だから有耶無耶のうちに快斗の言った事は忘れ去られていて、青子の耳には入っていなかったんだと思い込んでいた、が。
しっかりと聞いていた。



「でもなんでだろ、最近になって青子モテキになったのかなぁ」
恥ずかしくて耳まで赤くなっている快斗を余所に、最近急にもてはじめた己に謎な様子の青子。
人生に3回は来ると言うモテキだが、実質青子人生1回目のモテキは現在だと快斗も同意できる(心の中で)。
「ばか、みょーちくりん青子を好きだっていう奴等は多分脳が故障してんだよ」
「…そういう快斗もその類じゃない。」
コケにされて口を尖らせる青子。
「ま、そう言う事だな」
今度は否定も言い訳もせず、不敵な笑みを浮かべる。

“ドキドキ“になれてきたのかもしれない。
そういえば、心臓の高鳴りもそれほど気に成らなくなっていた。





「青子」
「なに?」
今度はい気を多めに吸う事もなく、名を呼べた。


「俺と、付き合ってくれるか?」
「もちろん。」
ふわりと青子が笑う。
どうしようもなく笑顔が可愛くて、言い表しようのない可愛さが直に胸に届いて、つられて快斗も笑顔に成る。











『すごい今、幸せかも知んない』
噛みしめた、感情を止めたくなくて。


どちらともなく体を寄り添わせると、息がかかるほど近づいた顔を、更に近づける。

チュ、と軽く音を立てて、着いた唇が離れる。


「好きだよ、快斗……」
少しだけ涙目の青子が、快斗の胸に顔を埋めた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ