NOVAL

□stairs
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確か、母さん達は出掛けてるんだったな。家の備え付けられた固定電話にも出ない。家には居ないのか。こりゃ、一人寂しくコンビニ弁当か?何度目か分からない深い、深い溜め息が零れ落ちる。
透の前を歩く目暮警部と佐藤刑事はなんとなく事情を察して困った表情を浮かべた。天下の警察も脱帽するようなずば抜けた灰色の頭脳を持っている大人びた透でも、彼女の愛美の事になると途端に年相応の少年になってしまうからだ。
長いストリートの終点に、地下一階から地上三階まで一気に運んでくれるエスカレーターが姿が現した。透は目の前に広がる広大な空間にはじける、週末のウキウキとしたショッピングモールの雰囲気に更に気分を落ち込ませて、手すりに凭れるように少々だらしなくエスカレーたに身を預けた。
「あっ!」
佐藤刑事の気の抜けた声に引き寄せられ、意気消沈の透は顔を上げた。透の乗る下りエスカレーターの右を走る上りエスカレーターの下方に愛しの愛美の姿を発見して、透は表情を明るくした。
が、しかし、ついでむっと歪めた。確かに愛美だ。かなり重苦しい雰囲気の集団なのだが、こちらに気が付いていない。
目暮警部がそっと背後の透を窺った気配がしたが、透は奇麗に無視をして前方にだけ神経を向け注視していた。愛美一人だったら透は喜び勇んで、愛美を食事へと誘うべく心の準備をしていただろう。
しかし、愛美は一人ではなかった。
見慣れた愛美の友達であり、愛美をめぐる天敵でもある奈海の他に、見知らぬ男が付き添っている。傍目から見ればダブルデートをしているように四人は楽しそうに話をしていた。ふと、愛美が顔を上げる。
透と愛美の視線が絡んだ。途端愛美が困った、戸惑った瞳の色に変わる。何か透に申し訳ない気持ちがあったのか、す、と絡んだ視線が反らされてしまう。愛美は後ろに軽く振り返り、自分に逃げ場が無い事を確認すると、なるべく透から離れようとするかのごとく体を右側へと寄せて、外に顔を背けてしまう。透の表情が益々険しくなる。
佐藤刑事が面白がる様ににやにやと、人の悪い表情を浮かべて透を振り返った。
「やっほ〜 半田く〜〜ん!」
ひらひらとこれまた佐藤刑事とにた様な表情を浮かべて奈海が能天気に手を振って来た。段々と狭まる距離。
「愛美とこれから点心食べに行ってくるわね〜! 半田君の方はフレンチどうだった?」
事情を知っていて、しらじらしく話を展開してくる波に、透は返事も返さず、じっと愛美を見つめる。目で距離と周囲の人数を図る。足元を恥ずかしそうに見つめたままの愛美の頬のあの膨れ具合は、きっと拗ねているだけだ。本気で怒っているわけじゃない。だったらこんな状況下で己の誠心誠意をかけた、多少強引に押してもきっと受け入れてくれるだろう。みるみる距離が詰まる。
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