NOVAL

□spy
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と、テーブルに置かれた愛美の携帯を睨む。
「あ、ごめんね」
テーブルの上の携帯を手繰り、画面を見る。画面には電話をかけている人の名前が当然でいるはず。ディスプレイを見た瞬間、愛美の表情が変わった。
「あ…。ごめん、あの、ちょっと電話、してくるね」
明らかに挙動不審、そしてここで電話をすればいいのにそそくさとリビングを出て、廊下に行った。いつもならこの場で手短に用件を済ますのに、わざわざ廊下に出るなんて珍しいな、と思い、至る答えが透の思考を可笑しくさせる。
―――怪しくねーか?
いけないとは思いつつ、廊下に近づき愛美の電話に耳を澄ます。こそこそ話す愛美の声、と携帯から大きな声が聞こえる。明らかに男の声。携帯から漏れる声が男とは判別できたものの、人物と何と言っているかまでは分からない。
「ごめんね、今、透と一緒に居たから…」
ふぅん、俺と一緒にいたらまずい電話の相手なわけね。
「この時間はだいたい一緒にいるって言ったんだけど…。あれ、聞いてない?―――うん、だから、ごめん、この時間は電話、控えて欲しいの。―――うん、夜なら大丈夫だよ」
なんだ?どういうことだよ、それ。
俺の鼓動が早くなる。手に汗。足は少し震えている。
「大丈夫、バレてないよ」
今、バレたよ。
「大丈夫だって!なんとか隠し通すから」
隠し通すって…。俺にバレなきゃずっとその男と連絡を取り合うってことか?
「―――うん。え?来てくれるの?本当に?嬉しい!」
来るのかよ、その男。そして、何、喜んでんだよ。
「5月3日だよね?―――うん、午前中から夕方までは予定は入れないから。―――そうだよ、夜は透と」
朝からその男と会って、夜は俺とデートってことか?
そして、次の瞬間。蘭の顔がボンっと真っ赤になった。
「そんな…愛してるなんて…」
あ、愛ぃ!?
なんだよ!!その男、蘭に『愛してる』なんて言ったのか!?
しかも蘭も嫌がってないみてーだし。どんどん、ショックが大きくなる。どーゆーことだよ、これ…。
「じゃあ、待ってるね。駅まで迎えに行くから。―――うん、私も楽しみにしてる」
あ、やべ、そろそろ電話が終わる。
俺はそのままソファまで戻った。しばらく経って、蘭がリビングに入ってきた。
さっきの電話は聞かなかったふりをして。
「誰から?」
聞いてみた。
「あ、委員会の後輩から」
何事も無かったかのように、しれっと答えた。
部活の後輩に愛してるなんて言われてんのかよ。
そう、言ってしまいたい心を抑えて。
「ふーん…」
俺も何事もなかったかのように答えた。

やっぱり、俺の思い過ごしなんかじゃなかった。愛美は俺といてもよそよそしいし、上の空。
疑いたくねーけど、あんな電話聞いちまったし。―――浮気?――
愛美が?でも、愛美がそんなこと…。だよな、そんなことするような人じゃないし、できないだろう。
純粋で、素直で、まっすぐな女の子なんだから。
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