NOVAL

□oneside-love
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逡巡していると、悩ましい声が、後方で聞こえた。
「んぅ………………透?」
「…起きたか、ダメだろ、こんな所で寝たら。眠いんならベッド言って寝ろ」
「んー…透、お小言言うお母さんみたい、ふふ」
最近分かり始めた事だが、愛美の寝起きは幼い言動が多い。柔らかくいたずらに微笑む愛美の髪の毛をくしゃくしゃに撫でる。
「バーロ、俺はお前の母さんじゃねえ、彼氏だ」
「わかってるぅ。怒んないでよ、もー」
もし、愛美が、新一や平次たちの彼女みたいに幼馴染だったら、本当に幼い愛美から自分が全て知りえたのだろうか。
しかし、時を殆ど同じに過ごしていないだけで、関係上は幼馴染に変わりない。
「あ、それ……」
透の手に握られた、愛美が読んでいた小説に目をやる。透も何か言いたげが愛美も何か言いたげだ。
「”偶然”だろ?これ、俺も読んだ」
「やっぱり?ヘンだと思ったんだ、写真が挟まってたから…珍しいね、透が恋愛小説読むなんて」
「…悪かったな、変で。」
「どうして読もうなんて思ったの?たまたま?」
少し口にするのを迷う。理由が何とも未練がましいと言うか恰好悪いからだ。けれども純粋な目に見つめられては誤魔化そうという考えは浮かんでこなかった。
「これに出てくる男が、俺みたいだったから…なんか気持ちがすごく分かったからよ。そいで、その、お前の写真をだな…」
「見てたってわけ?」
くすくす…と心地の良い囀りで、愛美が透をからかう。予感通り愛美は笑い、透は機嫌が悪くなる。
「しょーがないだろ、好きな相手なのに、会えないどころか、お前には婚約の約束をした彼氏ができてるんだからな」
「………………」
「あ、ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけどよ…独り占めしたかったんだよ」
「独り占め?」
聞き返しながら、俯いた顔を上げる。頬が少しだけ赤い透の顔。夕日が当たっているから、の言い訳は使えない。一途に愛美を見つめる、藍色の綺麗な瞳と目が在った。胸が高鳴る。
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