NOVAL

□explain
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「だって最近の愛美ったらお肌すべすべだし、顔色もいいし? ほ〜ら、このほっぺなんてツヤツヤのつるつるで羨ましいったらないわ」

片方の眉尻を器用に持ち上げ、愛美の頬を手の甲でするすると撫でる。程よい弾力と瑞々しい感触が返ってくる。

「これってホルモンバランスがいい証拠よねえ」

関心した様子で肌の感触を確かめる志保に対し、愛美は耳までも赤く染めた。胸元でふたつの拳を作る。

「もう、志保、いい加減にして」
「からかってるわけじゃないわよ。幸せそうで安心してるの。今の愛美、すごく綺麗よ。──ね、半田君?」

「当然」

背後から届いた声に驚き、愛美が振り返る。視線が交わるより早く後ろから回った左腕が愛美の腰を抱き寄せた。
愛美の手を取り、甲に口付けたのはいうまでもなく透。まるでお姫様の様に。

「このオレが丹誠込めて育てましたから」
「愛の賜物ってわけね」
「そ。進行形で、未来永劫」
「まー、熱烈」
「見てな。愛美はこれからもっと綺麗になるぜ」
「し、透、なに言って……!」
「良かったわね、愛美。半田君自らの手で全身隅から隅まで今以上に綺麗にしてくれるそうよ」
「志保……!」
「オレに任せとけば間違いねーから安心しろって。愛美は何も心配いらねーから、な?」
「『な?』じゃないわよ。ふたりして変よ、その会話!」
「ですって。幸せ者ねー、羨ましいわー」

からかっているわけじゃないという前言が怪しく思える茶化した言い様に堪らず再度抗議した愛美だったが、唯一無二の存在とも言える恋人と親友ふたりに揃ってスルーされてしまった。それも爽やかに。憤りながらも確実な反撃を見出せず、愛美は透に抱えられたまま瞼を伏せ、ひっそりと溜め息を零す。不意に、自分へと向けられる気配を感じ、目を開ける。その先には思惑を孕んだ志保の視線があった。

「な、なに……?」
「私も半田君にお願いしちゃおうかしら」
「え……?」

一瞬、意味を掴みかねてきょとんとする。

「だ、ダメ! それだけは絶対ダメ!」

直後、志保の“お願い”の真意を捉えた愛美が咄嗟に透に抱きついた。両腕でしっかりと囲い、透を守ろうとする愛美の仕草に、志保はにやりと意地の悪い笑みを浮かべる。

「嫌だわ、冗談に決まってるじゃない。愛美ったら向きになっちゃって可愛いんだから」
「やっぱりからかってるんじゃない……!」
「どんな美女だろーがオレは愛美以外、相手にしねえぞ」
「ほらほら、半田君もこう言ってるわよ。ほんとに愛美ってば愛されちゃって」
「もう勝手にして……」
「そうねえ、それじゃ、親友の私は精々近くで愛美が綺麗になってく様をじっくり拝見させてもらおうかしら」
「いいぜ、じっくり見て堪能しろよ。滅多に見られるもんじゃねえからな」
「お言葉に甘えてたっぷり、じっくり観賞させてもらうわよ」
「ああ、けど、親友のオメーでも見れねえものがあるかもな」
「なによ」
「オレだけが知ってる、最高に綺麗な愛美」
「ちょっと、それいちばん見逃せないところよ! なーんで私が見れないのよ」

憤慨した様子で志保は頬杖のまま、愛美の背面に立つ透を見上げた。愛美も透の言わんとしていることが分からず、透を仰ぐ。ふたりの視線を受けた透は口元だけでくすりと笑い、気取った所作で視界を閉じ、

「そんなもん、決まってんじゃねーか」

すぐに開くと目元を緩め、これ以上ない得意げな笑みを唇に乗せた。

それはある意味至極真っ当で、会話の発端でもあり、趣旨そのものでもあり。だからこそうっかり見落としただけなのかもしれないが、微塵の照れもなく告げてしまえるのは──

「オレに抱かれてるときの愛美だから、だろ」

半田透の半田透たる所以──と言えるのかもしれない。
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